事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

ロバート・バドロー『ストックホルム・ケース』

先日、アンジャッシュ渡部の謝罪会見の様子を伝えた記事をヤフーニュースで読んでいたところ(おそらく人生で最も下らない時間の使い方だとは思うが)、「妻の佐々木希はなぜこんな目に遭っても離婚しないのか?ストックホルム症候群なのか?」といったコメ…

佐藤快磨『泣く子はいねえが』

いや、これは良いですよ!企画が是枝裕和という事で、まあそれっぽい静かなタッチのホームドラマなのかな、と予想していたが、本作のバカバカしいユーモアセンスは是枝作品には見られないものだ。脚本にせよ演出にせよ、本作が商業映画デビューとなる佐藤快…

ライアン・ホワイト『わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない』

北朝鮮の現最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)は、生前も偽造パスポートで来日して逮捕されたり何かと世間を騒がせていたから、2017年にマレーシアの空港で殺された、というニュースを聞いた時はびっくりした…

ヴァーツラフ・マルホウル『異端の鳥』

原作はユダヤ系ポーランド人作家、ジャージ・ニコデム・コジンスキーによる小説で、原題は『The Painted Bird 』という。現在は同題で松籟社から翻訳が出ているが、『異端の鳥』という邦題はこの映画の為に付けられたものではなく、1972年に角川書店から初め…

ウェン・ムーイエ『薬の神じゃない!』

私は化粧品関連の資材会社に勤めているのだが、このコロナ禍の影響で売り上げは大幅に減ってしまい、冬のボーナスも支給されるかどうか分からない。そりゃ、非常事態宣言が発布されて誰も外出しなくなれば化粧なんかする必要もない訳で、それが解除されたと…

黒沢清『スパイの妻』

黒沢清監督の新作『スパイの妻』は、もともとNHK BS8K用のドラマとして製作されたそうだが、私は最近やっと4Kテレビを購入し、その画質に驚いているぐらいなので当然観る事ができない。そこで映画版の公開を楽しみにしていたところ、本作がヴェネツィア国際…

キム・ドヨン『82年生まれ、キム・ジヨン』

私の家は共働きである。子供が小さい頃は妻が育児休暇を取り、職場に復帰した後も小学校を卒業するまでは時短勤務を続けている。妻の勤務先は一部上場企業で労働組合もあるから、出産した後の女性の働き方について、ある程度融通が効く様だが、それでも職務…

青山真治『空に住む』

多部未華子と岸井ゆきのが共演するというから、今泉力哉の新作かなと思って観に行ったところ、何とびっくり、青山真治の7年ぶりの新作だった。コロナ禍の影響で公開が延期となった今泉監督の『街の上で』と混同していたらしい。それにしても、青山真治と黒沢…

ベンジャミン・ターナー他『メイキング・オブ・モータウン』

スティービー・ワンダー、マービン・ゲイ、ジャクソン5などを輩出し、アメリカのみならず世界中のポップ・カルチャーに多大な影響を与えたレーベル、モータウンが創立60周年を迎えた。それを記念して作られた本作では、モータウンの創設者であるベリー・ゴー…

ソフィア・コッポラ『オン・ザ・ロック』

主人公のローラ(ラシダ・ジョーンズ)は、夫のディーン(マーロン・ウェイアンズ)が新人の女性社員と残業や出張を繰り返す事を不審に思い、やがて浮気を疑い始める。そこで、自分の父親フェリクッス(ビル・マーレイ)と共に探偵まがいの調査を開始。夫を…

S・クレイグ・ザラー『ブルータル・ジャスティス』

S・クレイグ・ザラーの新作が、日本で初めて劇場公開された!と言って、喜ぶ人が何人いるのだろうか…『トマホーク ガンマンVS食人族』も『デンジャラス・プリズン ―牢獄の処刑人』もDVDスルーだった事を考えれば喜ぶべきなのだろうが、それにしても日本国内…

ディアオ・イーナン『鵞鳥湖の夜』

最近、日本のお笑い界では第七世代と呼ばれる若手芸人たちが非常に人気らしいが、中国映画界においても第七世代とも言うべき監督たちが登場し、国際的にも大きな注目を集めている様だ。ここで、中国映画界の歴史について簡単に解説する…とかっこいいのだが、…

キム・スンウ『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』

私は『宮廷女官チャングムの誓い』なるドラマを観た事がない。以前勤めていた会社の同僚のオッサン(全く仕事はできないが、とにかくいい人だった)が、聞いてもいないのにこのドラマの話ばかりしていたので、日本でも人気があった事は知っているものの、そ…

クリストファー・ノーラン『TENET テネット』

クリストファー・ノーランの新作『TENET テネット』がいよいよ公開される運びとなった。新型コロナウイルスの影響で予定されていた大作映画が次々と公開延期となる中、おそらく最も待ち望まれていた作品のひとつだろう。映画館でも予告編が流れまくっていて…

大林宣彦『海辺の映画館―キネマの玉手箱』

大林宣彦の『海辺の映画館―キネマの玉手箱』について、何を語ればいいのだろうか…正直、全否定したい気持ちもあるのだが、ここまでやれば大したものだ、という気がしないでもない。まず、映画が始まる前にヒントン・バトルとかいう知らんオッサンへの応援メ…

ジョナ・ヒル『Mid90s ミッドナインティーズ』

よく考えると『パブリック 図書館の奇跡』から3本連続で俳優が監督した映画を取り上げている。まあ、俳優が映画を監督するなんて今まで幾らでもあった訳だが、この3本は非常に手堅いというか、無理に目新しい事をやろうとしていないのが良い。MVやCM出身の映…

オリビア・ワイルド『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』

アメリカの学生にとって、プロムと呼ばれる高校卒業パーティは一世一代のイベントらしく、これまでも様々な映画で題材にされ、ひとつのジャンルを形成するにまで至っている。しかし、普段からクラスの人気者でモテモテの学園生活を送ってきた奴がプロムで大…

エミリオ・エステベス『パブリック 図書館の奇跡』

安倍、総理やめるってよ。 という訳で、ここ最近メディアは次の総理大臣の話題でもちきりになっている訳だが、それはそれとして、8年弱にわたって続いた安倍政権の総括もいずれ必要な時期が訪れるだろう。いわゆるアベノミクス政策によって企業の収益が大幅…

ウィルソン・イップ『イップ・マン 完結』

2008年に公開された『イップ・マン 序章』から足掛け11年、遂に『イップ・マン』シリーズが完結した。ドニー・イェンが世界的にブレイクするきっかけとなり、アジア圏内を超えて世界中で大ヒットを記録した人気シリーズが遂に大団円を迎えた訳である。例えば…

キム・ボラ『はちどり』

私事ながら、先日実母が死去した。母親は私が幼少の頃から精神を病んでおり、何度も自殺未遂を重ね、また家族に対する暴力も酷く、私はいつも彼女に怯えながら暮らしていた様に思う。また、父親は多額の借金を抱え、その負い目もあったのか、完全に母親の精…

イ・ウォンテ『悪人伝』

もはや韓国映画という枠を飛び越え、世界的なスター俳優への道を進み始めたマ・ドンソクの主演最新作は、お得意のフィルム・ノワールである。疾駆する車を舐める様に追っていく冒頭のシーンや、刑事とチンピラがバイクの二人乗りで殺人現場へ向かうシーンに…

リチャード・スタンリー『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』

アメリカの怪奇小説家、H・P・ラヴクラフトの残した小説群を後進の作家たちが体系的にまとめた事で誕生した「クトゥルー神話」は、英米のみならず世界中で愛好者を獲得し、その系譜に連なる作品が今でも新たに生み出されている。当然、映画界もそのご多分に…

スコット・ベック&ブライアン・ウッズ『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』

本作で監督、脚本を務めたスコット・ベックとブライアン・ウッズは小学校からの幼なじみで、学生時代からコンビで短編映画などを作っていたらしい。それが映画関係者の目に留まり、2015年の『ナイトライト 死霊灯』で映画監督としてデビューを果たした。次に…

フランソワ・オゾン『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

ローマ・カトリック教会の神父、ベルナール・プレナが1971年から91年にかけて、80人以上の少年に性暴力を働いたとされる事件は、人口の70%がカトリックであるフランス全土を震撼させた。この事件は現在も係争中ではあるがが、その捜査や裁判の過程で暴露され…

ヨハネス・ロバーツ『海底47m 古代マヤの死の迷宮』

『クロール―凶暴領域―』の感想でも書いたのだが、サメというのは水中でしか生きられないので、こちらが陸にいる限り怖くないものである。その為、製作者たちはサメが人を襲う新たなシチュエーションを生み出す為に、あの手この手の工夫を凝らしてきた。中に…

トレイ・エドワード・シュルツ『WAVES/ウェイブス』

近年、独創的で質の高い作品を連発し続けるアメリカの製作会社A24の新作『WAVES/ウェイブス』は、フロリダを舞台に現代のティーンエイジャーが抱える苦悩を描いた青春映画の恰好をとっているが、特筆すべきは登場人物たちの感情や物語の展開にマッチした挿入…

リー・ワネル『透明人間』

透明人間 (字幕版) エリザベス・モス Amazon ユニバーサルがMCUに対抗してぶち上げた「ダーク・ユニーバース」なるモンスター映画のリブート企画も、肝心の第一作『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』が評価、興行成績とも散々の結果に終わり、速攻で無かった…

ジェラルド・カーグル『アングスト/不安』

1983年にオーストリアで公開された本作は、その凄まじい内容から1週間で上映打ち切りになったらしい。ヨーロッパでも上映が禁止され、イギリスとドイツに至ってはビデオの発売も禁止となった。アメリカでは「成人向け」を表す「X指定」の更に上をいく「XXX指…

グリンダ・チャーダ『カセットテープ・ダイアリーズ』

前回扱った『サンダーロード』に続き、またもやブルース・スプリングスティーンの名が映画に登場するので驚いた。これは何なんだろう?ジョン・レノンやボブ・ディランじゃ駄目なのか?まあ、単なる偶然だとは思うが…とはいえ、『サンダーロード』ではあくま…

ジム・カミングス『サンダーロード』

ジム・カミングスが監督・脚本・編集・音楽・主演を1人でこなした本作は、2016年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞した他、様々な映画祭で高い評価を受けた。メジャーな映画会社が周到なマーケティングと大規模な資金の投入によって、ブロックバスター映…