事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

スコット・ベック&ブライアン・ウッズ『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』

本作で監督、脚本を務めたスコット・ベックとブライアン・ウッズは小学校からの幼なじみで、学生時代からコンビで短編映画などを作っていたらしい。それが映画関係者の目に留まり、2015年の『ナイトライト 死霊灯』で映画監督としてデビューを果たした。次に脚本を担当した『クワイエット・プレイス』がスマッシュ・ヒットを記録し、今回が満を持しての監督2作目となる。製作は『ホステル』や『グリーン・インフェルノ』での過激な暴力描写が話題を呼んだイーライ・ロス。しかし、本作はレイティングが「PG12」という事もあってゴアシーンは控えめとなっている。
キャリアから想像するに、彼らは子供の頃からホラーやSF映画を愛好し、ジャンル映画について膨大な知識を持っているのだろう。本作にもジョン・カーペンタートビー・フーパー作品からの影響が窺われ、そこかしこに過去作品のオマージュが散りばめられている。もちろん、私もこの手の稚気は嫌いではない。むしろ、カーニバル・ホラーと聞いただけでワクワクしてしまう様な人間である。しかし、そのジャンルに精通した人間が作ったからといって、必ずしも面白い映画になる訳ではないのが難しいところなのだ。
ハロウィン・パーティで盛り上がった男女6人が、マジもんの殺人鬼が運営するお化け屋敷に入り込んだおかげで酷い目に遭わされる、というのがだいたいの筋書きなのだが、とにかくこの映画、大した話でもないのに話がえらく呑み込みづらい。そもそも、6人の殺人鬼がわざわざ時間と金を掛けて自前のお化け屋敷を作った理由も目的も説明されないので、劇中でどんなに過激な事が起こっても全くノれないのである。もちろん、単なるキチガイだから理由もなく人をぶっ殺したってかまわないのだが、キチガイならキチガイなりの理屈というのをでっち上げでもいいから提示してくれないとちっとも面白くない。要するに、悪のドラマが全く描かれていないのである。トビー・フーパーの『ファンハウス 惨劇の館』だって、めちゃくちゃいい加減な話だったが、さすがにその点はきっちり抑えていた。見世物として生きるしかない異形の者たち(それは、ホラー映画に登場するモンスター全てに言える事だろう)の哀しみを描く事で、トッド・ブラウニング『フリークス』の系譜に連なろう、という映画的野心がそこにはあった訳だ。本作にあるのは、自分の好きな要素を詰め込めば面白い映画ができるんじゃね?という、映画オタクの安易な発想だけである。

従って、本作に登場するお化け屋敷のガジェットやトラップは単に舞台装置として用意されただけで、映画に何の貢献もしていない。例えば、トビー・フーパーはお化け屋敷を縦に分割し、上層部に主人公たち、下層部に犯人たちを配置する事で、これまで忌み嫌われてきた地下世界の住人たちによる地上への復讐、というドラマを空間的に提示していた。それに対し、本作に登場するお化け屋敷は、何の意図も戦略も無いまま、ただダラダラと繋がっているだけの間延びした空間に過ぎないのである。殺人鬼にピエロ、ゴースト、ヴァンパイア、デビル、ゾンビ、ウィッチとバラバラのマスクを被らせる事で差別化しようとしているが、そもそもキャラクター描写に厚みが無いので全く成功していない。だったら、お化け屋敷を6つのゾーンに区切って、それぞれに殺人鬼を配置し、主人公たちがひとつずつ突破して脱出を目指す、みたいな展開の方が良かったのではないか。
当初は泣き叫ぶだけの存在だった主人公の少女が、恐怖を乗り越えて殺人鬼と対峙する存在へと成長する、という展開は『クワイエット・プレイス』の脚本家らしいが、いかんせん取って付けた様な印象は否めない。そもそも、この設定でお化け屋敷から脱出した後も物語が続くのは蛇足でしかないだろう。

 

あわせて観るならこの作品

 

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トビー・フーパーによるカーニバル・ホラーの傑作。ディーン・R・クーンツによるノベライズ版も世評が高い。

 

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このコンビの出世作となった侵略SFホラー。以前に感想も書きました。ただ、公開を控えている『PARTⅡ』はジョン・クラシンスキーの単独脚本となった様だ。