事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

エンニオ・モリコーネ追悼

エンニオ・モリコーネが2020年7月6日に死去した。享年91歳である。映画音楽を手掛け始めたのが1960年代、それから2010年代までおよそ60年近くも第一線で活躍していた。近年は新作の話も無かったと思うので、すると彼が最後に音楽を手掛けた映画はジュゼッペ…

おまえがアップリンクに行こうが行くまいが知った事か。

私は関西在住なので有限会社アップリンクの運営する映画館は今まで利用した事が無い。ただ、アップリンクの配給した映画は何本か見ていたし、代表である浅井隆氏は映画ファンの間では有名な人なので名前だけは知っていた。コロナ禍で遅れていたアップリンク…

ダルデンヌ兄弟『その手に触れるまで』

ダルデンヌ兄弟の映画といえば、市井の人々が抱く苦悩をテーマにしたリアリスティックなストーリーと、ぎりぎりまで対象に近づいた手持ちカメラによる撮影がその特徴として挙げられる。というと、何か社会派ドキュメンタリーの様な作風を想像してしまうかも…

ペドロ・アルモドバル『ペインアンドグローリー』

ペドロ・アルモドバルという監督について何を語ればいいのだろう…もちろん、スペインを代表する名監督である事は認めるし、全てではないがそれなりに作品も観てはいる…ただ、個々の作品はそれなりに面白いのに、その作品群から作家性を抽出しようとするとぼ…

エイドリアン・グランバーグ『ランボー ラスト・ブラッド』

ロッキーとランボー。ハリウッドを代表する2大ヒーローを生み出し、ここまでの長寿シリーズに育て上げてきたシルベスター・スタローンの功績は映画界にとってはかり知れないものがある。しかし、監督脚本主演もこなすスタローンの才人ぶりを、これまで映画業…

ジム・ジャームッシュ『デッド・ドント・ダイ』

これぞジャームッシュと言うべき傑作『パターソン』とThe Stoogesのドキュメンタリー『ギミー・デンジャー』に続くジム・ジャームッシュの新作は、何とゾンビ映画である。確かに、これまでも『デッドマン』や『ゴーストドッグ』など、ジャンル映画に淫した作…

グレタ・ガーウィグ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

https://www.storyofmylife.jp/ ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』は、現在も多くの人に読み継がれてきた児童文学の傑作であり、ハリウッドでも過去に何度も映画化されてきた。その中では、ジョージ・キューカーによる1933年版、マーヴイン・ルロイ…

内藤瑛亮『許された子供たち』

許された子どもたち 上村侑 Amazon 内藤瑛亮監督作品では『ミスミソウ』と『パズル』しか観ておらず、本作と同テーマを扱った『先生を流産させる会』は未見のままである。タイトルからして相当ヘビーな話であろうと想像され、なかなか観る勇気が出ない。しか…

ジャスティン・ペンバートン『21世紀の資本』

それにしても、数年前にトマ・ピケティの『21世紀の資本』が我が国で大ヒットしたのはいったい何だったんだろうか?まあ、アベノミクスがどうとか、グローバル経済がどうとかいっても、国民の生活は全く豊かにならないし、格差が広がっているばかりじゃない…

スジート『サーホー』

ようやく、緊急事態宣言が解除され、近畿圏の映画館も営業を再開し始めた。本作は私にとって、ジェニファー・ケントの『ナイチンゲール』以来、約1か月半ぶりの劇場での鑑賞である。しかし、実際に近所の映画館に行ってみると、日曜日の昼間というのに映画館…

緊急事態不機嫌日記(5/18~5/21:終)

5/18今週は月曜日と金曜日が出勤日。帰宅すると「特別定額給付金」の申請書が届いていたのでさっそく記入。世間では、オンラインで申請しようとした人々がマイナンバーカードのパスワードを忘れて市役所に殺到したり、入力ミスが多発して逆に手書きの申請書…

緊急事態不機嫌日記(5/11~5/17)

5/11Twitterで「検察庁法改正に抗議します」というハッシュタグの付いた投稿が500万件あった、と話題になっている。これに対し、安倍応援団の方々は「左翼による動員だ!スパム投稿だ!」と陰謀論を唱えてご立腹の様だ。その後、このハッシュタグの付いた投…

緊急事態不機嫌日記(5/4~5/10)

5/4連休3日目。妻から、「どうせ何もやる事がないのだから、庭の手入れをして欲しい」と言われたので、庭の雑草抜き。ついでに、以前空き巣に入られた際に庭に撒いた防犯用の砂利がものすごく汚れてきたので全て回収した。結局、セキュリティ会社と契約した…

緊急事態不機嫌日記(4/27~5/2)

4/27ナインティナイン岡村の風俗嬢発言だが、まあ気持ちは分からないでもない。風俗に通い詰めて数多くの風俗嬢と接している内に、この娘たちは自分の意志で喜んでこの仕事をやっているのかな、と思い込む様になったんだろう。もちろん、そういう風俗嬢も存…

緊急事態不機嫌日記(4/20~4/26)

4/20本日は通常出勤。通勤電車の中はそれなりに人がいて、とても8割減という感じではない。まあ、私などは何をするにもぼっちの人間だし、人との接触を8割減らそうとしたら無人島に引っ越すぐらいしかないのだが。妻にも、あんたは今の暮らしが永遠に続いて…

緊急事態不機嫌日記(4/13~4/19)

4/13今日は通常出勤日。ニュース番組では非常事態宣言後の都心部の様子を写すのがお決まりになっているが、どの番組でもキャスターが「私たち個人ができる事をやっていきましょう!」みたいな事をぬかすのに腹が立つ。勝手にこっちに責任をなすり付けてくる…

緊急事態不機嫌日記(4/8~4/11)

4/8いよいよ、緊急事態宣言が布告された。これでしばらくの間、映画館に行く事もできなくなるだろう。仕方がないので、これからは備忘録的な日記を書いていく事にした。 1日ずつ交代でテレワークと通常出勤を行う、というのが現在の勤務状況で、本日は通常出…

ピーター・ジャクソン『彼らは生きていた』

ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド(字幕版)発売日: 2019/07/19メディア: Prime Video 原則的に、私は劇場で鑑賞した新作の感想のみをアップしているのだが、今回は例外的にAmazon prime videoで観たばかりの今年公開の作品を取り上げる。劇場公開から…

ジェニファー・ケント『ナイチンゲール』

前作『ババドック 暗闇の子供』は『エクソシスト』風のプロットにシングル・マザーが抱える精神的重圧や社会的な孤立感といった女性監督らしいテーマを盛り込んだ傑作だった。特に、母親役のエッシー・デイヴィスの鬼気迫る演技が素晴らしく…とにかく1度観て…

豊島圭介『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』

三島由紀夫が1969年に東大全共闘と行った討論会については、『美と共同体と東大闘争』という本が角川文庫から出版されていて、映画ではカットされているやり取りについても全て収録されている。この討論会がその1年後に三島が実行するクーデターと自決にいか…

今こそ!春の伝染病映画祭り

せっかくの春休みだというのに、新型コロナウイルスの影響で、ライブやスポーツ観戦など大型イベントの中止が相次いでいます。一部の都市では週末の外出について自粛要請まで出されている事もあり、休日なのにどこにも出掛けられない、と嘆いている方も多い…

ラジ・リ『レ・ミゼラブル』

1960年代にフランス政府が労働力確保の為に実施した旧植民地からの移民受け入れ政策に伴い、都市郊外には移民向けの住居として低所得世帯用公営住宅団地が数多く建てられる事になった。しかし、移民たちをめぐる社会的環境は厳しく、貧困や差別に晒された彼…

ルパート・グルード『ジュディ 虹の彼方に』

演劇畑のルパート・グルードが監督した『ジュディ 虹の彼方に』は、正確な意味での伝記映画ではない。ジュディ・ガーランドについて何の知識もない人が、かつての大スターの生涯について詳しく知りたいと思って本作を観に行ったとしても、期待を裏切られるだ…

クリス・サンダース『野生の呼び声』

原作はジャック・ロンドンによる冒険小説の古典的名作である。その為、今まで何度も映像化されているのだが、私はそれら過去作品を1本も観た事がない。本作を鑑賞する前に予習をしておくかと思い立ち、ネットで調べたところ、どの配信サービスでも見当たらな…

ビー・ガン『ロングデイズ・ジャーニー この世の涯てへ』

映画の途中で2Dから3D映像に切り替わるという、一風変わった構成が話題になっているらしいので、私は普段3Dで映画は観ない(割増料金を払う程、金銭的な余裕が無い為)にもかかわらず、わざわざ3D上映が実施されている映画館にまで行ってきた。しかし、窓口…

HIKARI『37セカンズ』

映画の冒頭、トイカメラか何かで写した様な、ミニチュアめいた東京の街並みが俯瞰ショットで映し出される。その不思議に現実感を欠いた風景が、リアリティとファンタジーのない交ぜになった、本作の不思議なトーンを初めから提示しているのだ。だからこそ、…

アリ・アスター『ミッドサマー』

この企画、そもそもはスウェーデン側から持ち込まれたものらしいが実際に出来上がった映画を観て、お偉いさんが怒ったりしなかったのかね。「テメエ、人様の国を何だと思ってんだ!」とか…まあ、それはともかく『ヘレディタリー/継承』が世界中で大絶賛を浴…

サム・メンデス『1917 命をかけた伝令』

作品賞は逃したものの、アカデミー賞の3部門を受賞した本作、世間では「全編ワンカット映像」という謳い文句で話題になっている。もちろん、これだけ大規模な映画で本当に「全編ワンカット映像」など実現できるはずもない。実際は、複数の長回し映像をCG処理…

ブライアン・デ・パルマ『ドミノ 復讐の咆哮』

ブライアン・デ・パルマ8年ぶりの新作という事で、少しぐらい出来が悪くても、何だかんだとデタラメを並べて「全ての映画ファンが観るべき10年に1度の傑作!」ぐらいのハッタリをかまそうと―何しろ、俺の映画評はそんなのばっかりだから―身構えていたのだが…

ジョナサン・レヴィン『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』

これって結局、『アメリカン・プレジデント』を引っ繰り返しただけじゃないの?あっちも政治と環境保護がモチーフになっていた気がするし…ここ最近、例えば『オーシャンズ8』とか『ゴーストバスターズ』とか、オリジナルのホモソーシャルな世界観をそのまま…