事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

今泉力哉『his』

柔らかな朝の日差しに照らされたベッドの上で、日比野渚(藤原季節)は、微睡む井川迅(宮沢氷魚)の耳を愛撫し、その耳の形から恋人の性格を診断する。渚によれば、三日月形の耳を持つ者は控えめで協調性があり、他人に尽くす事に喜びを見出す受動的な性格…

クリント・イーストウッド『リチャード・ジュエル』

この映画、アメリカでは公開後に少々物議をかもしていたらしい。というのも、劇中に登場するアトランタ・ジャーナルの女記者について、FBI捜査官に性交渉を持ち掛け、その見返りに内部情報を入手した、という風な描き方をしているからである。この点に関して…

ジェームズ・マンゴールド『フォードVSフェラーリ』

タイトルに偽りありというか、『フォードVSフェラーリ』というタイトルの割に、フェラーリ側についてはほとんど描かれていない。60年代後半に名車フォードGT40によってル・マン4連覇を成し遂げたフォードの苦難と栄光の道のりが本作の主題である。映画の序盤…

タイカ・ワイティティ『ジョジョ・ラビット』

第2次世界大戦下のドイツを舞台に、ヒトラーユーゲントに所属する少年ジョジョの日常を、ポップに、コミカルに描いた本作は、賛否の分かれそうな作風でありながら、アカデミー賞候補にノミネートされるなど概ね高い評価を受けている様である。では、その賛否…

ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』

ポン・ジュノという監督は、ジャンル映画のフォーマットを利用しながら、決してその枠組みの中に収まりきらない、過剰な物語を撮り続けてきた。その為、『グエムル-漢江の怪物-』や『スノーピアサー』といった、外見上エンターテインメント色の強い作品で…

イ・ビョンホン『エクストリーム・ジョブ』

いやいや、とにかく楽しい映画だった。解散寸前のうだつの上がらない麻薬捜査班が、麻薬組織への潜入調査の為に、近所のフライドチキン屋を買い取り(この時点で既におかしいのだが)目くらましに商売を始めたは良いが、思いのほか店が繁盛して捜査どころで…

2019年公開映画ベスト10

12月公開の映画を1月に入ってからも追い掛けていたので遅くなったが、2019年の個人的ベスト10を書いておく。日本での公開日が2019年の作品に限り、4Kデジタル版などのリマスター作品は除外した。 ①M・ナイト・シャマラン『ミスター・ガラス』②アルフォンソ・…

マーティン・スコセッシ『アイリッシュマン』

マーティン・スコセッシがMCU映画についてのコメントを求められ「あれはテーマパークの様なもので映画ではない」と述べた事が色々と物議をかもした様である。ジェームズ・ガンを始めとしたMCU関係者からの反発がある中、フランシス・フォード・コッポラはあ…

ジェイク・カスダン『ジュマンジ/ネクスト・レベル』

ジュマンジ/ネクスト・レベル ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray] 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 発売日: 2020/03/25 メディア: Blu-ray 1995年公開のオリジナル版『ジュマンジ』は、コマの止まったマスに書かれた事が実際に起こっ…

ジャファル・パナヒ『ある女優の不在』

家族からの反対にあい、女優への夢を絶たれた少女が将来を悲観し、洞窟内で首吊り自殺を図るまでの動画を突然送り付けられた人気女優ジャファリと映画監督のパナヒが、少女の行く末を案じ、その顛末を調べる為にイラン北西部のサラン村へと向けて車を走らせ…

イ・サングン『EXIT イグジット』

EXIT [Blu-ray] 出版社/メーカー: ギャガ 発売日: 2020/05/02 メディア: Blu-ray 韓国で観客動員940万人の大ヒットを記録した本作、ジャンルとしては高層ビルを舞台にしたディザスター・ムービー、という事になるだろうか。まあ、この手の映画は昔から色々あ…

片瀬須直『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

こうの史代の原作を絵、ストーリーにとどまらず、その空気感までをもほぼ完璧に再現し、高い評価を受けた映画版『この世界の片隅に』だが、私は原作は読んでいたもののそちらの方は未見であった為、この改訂版の公開を楽しみにしていた。今回の記事を書くに…