事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ヨハネス・ロバーツ『海底47m 古代マヤの死の迷宮』

『クロール―凶暴領域―』の感想でも書いたのだが、サメというのは水中でしか生きられないので、こちらが陸にいる限り怖くないものである。その為、製作者たちはサメが人を襲う新たなシチュエーションを生み出す為に、あの手この手の工夫を凝らしてきた。中には、竜巻に巻き込まれたサメが空から降ってきたり、サメにタコの足を生えさせたり、といった珍作もある。そんな中、前作『海底47m』はシャークケージダイビングを楽しんでいた姉妹が、ケージのワイヤーが切れるアクシデントによって海底に落とされてしまう、という非常にスマートなアイデアでこの課題をクリアしていた。ストーリーの大部分が水中で展開する為、撮影はかなり過酷だったと想像されるが、その苦労も実ってか見事スマッシュヒットを記録し、こうして続編が作られる運びとなった訳だ。
ただ、前作を純粋なサメ映画として捉えるのは少し無理があって、いやそもそもサメ映画って何だよ、という話になるが、要するに『ジョーズ』以降に作られた、サメの恐ろしさを売りにした動物パニック映画のサブジャンル、と定義するなら、その意味では『海底47m』はサメの恐怖だけを描いた作品ではないのである。無線の届かない海底に置き去りにされ、外部に助けを求める事もできない。時間が経つにつれて酸素はどんどん減っていくが、海上目指して浮上するにしても周りにはサメがうようよしているので、迂闊にケージの外に出れば命取りになる。この極限的な状況で、手持ちの道具を使って何とか生き延びようとする姉妹の姿を描いた前作は、『ソウ』以降、これも模倣作品が濫造された脱出系サバイバルホラーの派生作として捉えるべきだろう。賛否両論のあったラストの展開も、その文脈で考えると納得しやすい。この手のジャンルでは、とにかく終盤のどんでん返しで観客を驚かせる事を至上命題としているからだ。
ただ、前作をあの様なバッドエンディングで終わらせた為に、直接的な続編を作るのは難しくなった。そこで本作は『海底47m 古代マヤの死の迷宮』という題名が示す通り、舞台も登場人物も一新され、全く異なるテイストの映画に仕上がっている。プロットそのものはシンプルだった前作に対し、マヤ文明の遺跡が眠る海底洞窟に迷い込んだ4人の少女たちが、迷路の様に入り組んだ遺跡でサメに襲われながら脱出を目指すという、より趣向を凝らした設定が用意された。
前作が海底から海上へ、つまり垂直方向への移動だけに主眼を置いていたとするなら、本作では海底洞窟を舞台に据えた事で、水平方向への広がりを導入した事になる。しかし、それが物語の推進力としてあまり機能していないのが難点だ。そもそも、水中を舞台にしている本シリーズは映画全体を通して景色が変わり映えしない、という弱点を有していた。マヤの古代遺跡という設定は、その弱点を克服する為の試みだったのだろうが、結局はどのシーンもビジュアル的な差別化が図れていない。その為、観客からするとどこがどこに繋がっているのか地理関係が全く掴めず、単にヒロインたちが海中をウロウロしているだけに見える。前作の酸素残量計を利用したサスペンス性は大きく減退し、またプロット的にこのマヤ文明云々が何かの意味を持っている訳ではないので、全体的にぼんやりした話になってしまった。
その代わりに大きく向上しているのが、ヒロインたちを襲うサメのもたらす恐怖感である。視界の悪い水中、しかも複雑に入り組んだ海底洞窟という舞台設定が、いつどこから現れるか分からないサメの恐ろしさをよりアピールする事に成功している。登場人物がサメによって1人、また1人と犠牲になっていく展開は、『13日の金曜日』の様な殺人鬼ホラーのテイストに近いと言えるだろう。前作の単純明快な設定を複雑化した事で失ったものも多いが、これはこれで楽しめる作品に仕上がっていると思う。前作と異なり、本作は一応のハッピーエンドを迎えるのだが、ヒロインたちが海上に辿り着いた後の、序盤の伏線を活かした皮肉な展開には大いに笑わせてもらった。

 

あわせて観るならこの作品

 

海底47m [Blu-ray]

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  • 発売日: 2018/10/05
  • メディア: Blu-ray
 

ストーリー的な繋がりは無いが、そのテイストの違いを見比べて頂く為にも、前作を鑑賞してから観に行く事をお勧めする。