事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

エイドリアン・グランバーグ『ランボー ラスト・ブラッド』

ロッキーとランボー。ハリウッドを代表する2大ヒーローを生み出し、ここまでの長寿シリーズに育て上げてきたシルベスター・スタローンの功績は映画界にとってはかり知れないものがある。しかし、監督脚本主演もこなすスタローンの才人ぶりを、これまで映画業界が正当に評価してきたかといえば、少々疑わしい。未だオスカーを受賞した事もないし(ゴールデン・ラズベリー賞は何度も獲得しているが…)、そもそもロッキーやランボーなんて中学生並みの知能しか持たない映画オタクが喜ぶだけの下らない映画だと思われている節がある。実際、この『ランボー ラスト・ブラッド』も批評家筋の評判は散々の様だ。曰く「ゴア描写が多過ぎて気分が悪くなる」「人物造形がありきたりだ」「ストーリーが適当すぎる」etc…
確かに、そうした批判は的を得ているのかもしれない。そもそも、スタローンは個々の作品の出来不出来に頓着する様な男ではないので、近年も『大脱出』というどうしようもないアクション映画のシリーズ化に嬉々として取り組んでいたりする。本作では久々に映画監督として気合の入った仕事をしてくれるか、と思いきや、エイドリアン・グランバーグというどこの馬の骨とも知れない人間に監督を任せている…これまで
ロッキー・ザ・ファイナル』や『ランボー/最後の戦場』など、節目となる作品は必ず自身が監督を務めてきたにもかかわらず、である。今回はメキシコマフィアとランボーとの戦いを描いているので、メキシコ刑務所からの脱出劇を描いた『キック・オーバー』の監督を抜擢したのかもしれないが…できればスタローン自身に監督を務めてもらいたかった。前作ランボー/最後の戦場』が大傑作だっただけに…まあ、予算や撮影期間など、色々と難しい面があったのだろう。この企画自体も二転三転した上でやっと実現を見たらしい。
そういう訳で、本作は非常に突っ込みどころの多い、誰もが安心してボロクソにけなす事のできる映画になっている。『ランボー』シリーズについて、第1作こそ遅れてきたアメリカン・ニューシネマとして評価できるが、後は全部クソという方には本作のゴア描写は我慢ならないものだろうし(原作者のデイヴィッド・マレルがこの手合い)、『怒りの脱出』以降の痛快なアクション映画としてシリーズを楽しんできたファンにとっては、本作の予想以上にスケールの小さい話に戸惑ってしまうに違いない。それを承知で言わせてもらえば、『ランボー ラスト・ブラッド』はシリーズの掉尾を飾るにふさわしい秀作である。といって、世評の逆張りやひいきの引き倒しをしているのでない事は最初に言っておく。
スケールの小さい、と書いたが、本作のランボーはこれまでの様に傭兵として戦地に派遣される訳ではない。人身売買組織に拉致された少女を救う為、単身メキシコに乗り込むもののそこで派手な戦闘を繰り広げる事もない。今回、戦場の舞台となるのは何とランボーの自宅なのである。第1作目ではベトナムから帰還したランボーが保安官や州兵と戦闘を繰り広げ、アメリカを銃弾と血飛沫の飛び交う戦場に変貌させた。これは「世界の警察」を自負し、世界各地に兵を派遣して戦場に変えてきたアメリカ合衆国へのカウンターとして機能していた筈だ。しかし、その後シリーズは戦争アクションへと方向性をシフトし、ベトナムアフガニスタンミャンマーといった他国に戦いの場を求めていく事になる。確かに、アメリカ本土でロケットランチャーやマシンガンを派手にぶっ放すという状況はリアリティの面からなかなか想像しづらい。80年代のアクション映画が過去や近未来に舞台を求めていったのも同じ理由だろう。
その様な意味で、ランボー ラスト・ブラッドの設定はシリーズ第1作への原点回帰を図るとともに、過去作への反省に基づいたものだと言える。本作において、ランボーは前作『ランボー/最後の戦場』で帰還した農場の地下に、常軌を逸した広さの地下道を掘っている。そこには大量の銃器や爆薬が備蓄されており、映画のクライマックスでは地下道の至る箇所にブービートラップを仕掛けられ、攻め込んできた敵を次々と葬っていく。これまでのシリーズ作品でも、ランボーが地下の坑道に逃げ込み、そこで戦闘を繰り広げる場面は何度も登場したが、今回はそれを意図的に再現しようとする、自己パロディ的な側面が強い。
ここに、これまで外部に求めてきた戦地をアメリカ内部へ引き込もうとするシルベスター・スタローンの覚悟を汲み取る事ができる。アメリカとメキシコの国境に立てられた有刺鉄線の柵をランボーが無造作に車で踏み越えていくシーンに、外部との間に障壁を設け自国内に引きこもろうとするトランプ政権への批判を見る事ができるだろう(もちろん、そうした政策は新型コロナウイルスという「越境者」によって無効化されてしまった訳だが)。2020年現在、人々が目の当たりにしているアメリカの「内乱状態」を既に見通していたかの様な本作の「アメリカ回帰」に、第1作目における「何も終わっていない!戦争は終わってないんだ!」というランボーの叫びの残響を聴き取れる筈だ。単にグロテスクで馬鹿々々しいだけの映画、と済ます事のできない過剰さを、本作は有している様に思う。

 

あわせて観るならこの作品

 

やはり、シリーズを追って鑑賞した方が楽しめる筈。意外と全作観ていない人も多いのでは。

 

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本作を一言で言い表すなら、残酷な『ホーム・アローン』といったところ。