事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

スジート『サーホー』

ようやく、緊急事態宣言が解除され、近畿圏の映画館も営業を再開し始めた。本作は私にとって、ジェニファー・ケントの『ナイチンゲール』以来、約1か月半ぶりの劇場での鑑賞である。しかし、実際に近所の映画館に行ってみると、日曜日の昼間というのに映画館はガラガラ、座席は1つ飛びに制限され、チケットのもぎりも無し、という異様な状況だった。コロナウイルスが怖いから、劇場で観るのはまだ控えている、という方も多いだろうし、今後、映画は劇場ではなくネット配信で観るものに変わっていくのではないか、という意見もあるようだ。もちろん、そうした傾向はサブスクリプション・サービスの興隆によってパンデミック以前から見られていたのだし、今回の自粛によって経営が立ちいかなくなった劇場が次々と閉館する、といった事態も考えられる。映画を取り巻く環境は今後大きな変化を強いられる事になるだろう。

しかし、だからこそ私たちは原点に立ち戻り、映画館に行くべきなのだ。巷でよく言われる新しい生活様式とは、今まで出来ていた事を我慢する、というものであってはならない。感染リスクをできるだけ避ける工夫は必要だが、私たちはもう一度、これまで気にも留めていなかった日常の大切さを実感し、それを取り戻そうと努力すべきなのではないか。だから、専門家やマスコミがよく口にする「気の緩み」なんて言葉に惑わされては駄目だ。私たちはウイルスと共に、根拠の無い恐怖とも戦っていかねばならない。

とまあ、映画の内容と関係のない話ばかりしても仕方がないので本題に戻る。しかし、緊急事態宣言開け一発目の映画だというのに、実はあまり言う事が無いのだった…『バーフバリ』二部作も記憶に新しいプラバース主演のクライム・アクションという事で期待していたのだが…観終わっての感想は、「やっぱり、『ワイルド・スピード』って、インドの映画界にも大きい影響を与えているんだなあ」という事ぐらいである。もちろん、あれだけの大ヒットシリーズだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。しかし、本作は『ワイルド・スピード』の二番煎じ、というだけに留まらない。ストーリーが変に入り組んでいて、私も途中からよく分からなくなったのだが、とにかく『ワイルド・スピード』と『ミッション・インポッシブル』と『マトリックス』と『アイアンマン』と『マッドマックス』と『ゴッドファーザー』を鍋にぶち込んで169分間煮込み続け、その上からインドカレーをかけた、とでも形容したらいいのか、よくTVで大食い芸人が挑戦する、常軌を逸したメガ盛りみたいな作品なのである。上映時間が2時間を過ぎたあたりから、人並みの胃袋しか持たない観客は「もうお腹いっぱいだなあ…」と感じ始めるのだが、「残さず食え!」とばかりに食道に無理やり料理を流し込まれる。もうこうなると味なんて関係ない。とりあえず腹いっぱい食べた、という実感はあるのだが、いったい何の料理を食べたのか、さっぱり思い出せないのである。詰め込み過ぎと言ってしまえばそれまでだが、とりあえず作り手の「お客さんにお腹いっぱい食べてもらいたい」という熱意は伝わってくるし嫌いにはなれない。願わくば、次からは腹八分目ぐらいのボリュームで映画を作って欲しいものだが。ミュージカルシーンで流れる挿入歌はなかなか良かった。

 

あわせて観るならこの作品

 

バーフバリ 伝説誕生 [Blu-ray]

バーフバリ 伝説誕生 [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/07/05
  • メディア: Blu-ray
 

本作の主演を務めたプラバースの名を世界的に知らしめた大ヒット作。大盛りといえばこちらも大盛りなのだが、ちゃんと料理の味が分かるのはS・S・ラージャマウリの映画的教養のおかげだろうか

 

ワイルド・スピード MEGA MAX [Blu-ray]

ワイルド・スピード MEGA MAX [Blu-ray]

  • 発売日: 2012/08/03
  • メディア: Blu-ray
 

シリーズの中では『1』とこの5作目の影響が特に大きいんじゃないでしょうか。