事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ピーター・ジャクソン『彼らは生きていた』

ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド(字幕版)

ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド(字幕版)

  • 発売日: 2019/07/19
  • メディア: Prime Video

原則的に、私は劇場で鑑賞した新作の感想のみをアップしているのだが、今回は例外的にAmazon prime videoで観たばかりの今年公開の作品を取り上げる。劇場公開からほとんど間を置かずに本作のネット配信が開始された事、そして何より現在の状況では映画館に行って新作を観る事が難しくなっている事が理由である。昨日も、『娘は戦場で生まれた』を観に行こうとしたら「何を考えているのか」と妻に激怒された…どうせ観客なんてほとんどいないだろうし、感染リスクは限りなく低いと思うのだが…観たい映画を観る事ができないストレスに苦しんでいる最中、安倍晋三星野源の「うちで踊ろう」に合わせて犬とじゃれてるクソ動画を観て余計に腹が立った。こんな気分の悪い、嫌がらせみたいな動画をアップするぐらいなら、内閣府は映画会社に金を払って新作映画をネット配信しろよ!もしくは、安倍晋三安倍昭恵と泥レスやってる動画とか。新型コロナウイルスが流行する前から消費税の増税で景気が落ち込んでいたのに、政府はまともな経済対策すら打ち出せず、倒産する企業、失職する人々が続出している。かく云う私だって他人事ではなく、最近は仕事かめっきり減ってしまい、将来が不安で仕方がない。その様な状況で生まれてこの方、貧しい思いなど1度もした事がないボンボンが犬とじゃれたりコーヒーを飲んだりしている動画を見せつけられる。一体、何を考えているんだ?緊急事態宣言を発令しておきながら、庶民に暴動でも起こせというのか?頼むから、早く眼の前から消えてくれ。こっちはお前の自己満足にかかずらわってる状況じゃないんだよ!

と、映画に関係の無い事をグダグダ書いてしまったのは、察しの通り映画の内容についてあまり書く事が無いからである。イギリス帝国戦争博物館に所蔵されていた第一次世界大戦の記録―画質も悪く、フィルムスピードもバラバラ、モノクロかつサイレントの映像を、最新のデジタル技術で復元、修正、着色、吹替を行い、全く新しい映像体験として提示してみせたピーター・ジャクソンの情熱には頭が下がる。だから、みんな観た方が良いよ…安倍晋三の動画なんか観て腹を立てるぐらいなら。

ただ、同じ第一次世界大戦を扱ったサム・メンデス『1917』と比較して、「やっぱり本物はリアリティが違う」とか何とか言うのはちょっと違うんじゃないだろうか。それは、フィクションとドキュメンタリーを比較するな、といった事ではなく、本来はバラバラだったフィルムを繋ぎ合わせ一貫した物語をねつ造している、という点で、本作もひとつの虚構だからである。別にそれが倫理的に問題があると言いたい訳ではない。ピーター・ジャクソンは誠実に題材と向き合っていると思う。ただ、現実はいつだって不確かで錯綜していて、私たちが捉える事ができるのは、そのほんの一部分、しかも何らかのバイアスが掛かった(それを編集、修正と言い換えてもいい)虚構の一形態である事を忘れてはならないと思う。

 

あわせて観るならこの作品

 

1917 命をかけた伝令 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2021/03/03
  • メディア: Blu-ray

以前に感想も書いたが、サム・メンデスによるこの作品は逆に映画が虚構である事をあからさまに曝け出している。まるで対になっているかの様な両作、ぜひセットでご覧頂きたい。