事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

2020年公開映画ベスト10

1月も終わろうかというのに、今さら2020年のベスト10を発表するのも間の抜けた話だが、個人的な踏ん切りを付けるために書いておく。新型コロナウイルスの影響で新作映画の公開が延期され、また緊急事態宣言の発令によって映画館に行く機会が減った事もあり、2020年に観た映画は合計74本。その中にはリバイバル上映やリマスターなども含まれるがベスト10はあくまで新作映画のみに絞った。


ディアオ・イーナン『鵞鳥湖の夜』
ナワポン・タムロンラタナリット『HAPPY OLD YEAR ハッピー・オールド・イヤー』
S・クレイグ・ザラー『ブルータル・ジャスティス』
黒沢清『スパイの妻』
佐藤快磨『泣く子はいねえが』
リー・ワネル『透明人間』
セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』
キム・ボラ『はちどり』
オリビア・ワイルド『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』


①は『薄氷の殺人』で上がったハードルを易々と超えてみせたフィルム・ノワールの快作。近年、ここまで絵面の恰好良い映画は観た事が無い。ハッタリの効かせ方はビー・ガンの『ロングデイズ・ジャーニー この世の涯てへ』に似ている面もあるが、個人的にシンプルな作りのこちらの方が好み。②は意外な伏兵というか、邦画でよくあるほんわか系の青春映画かな、と思っていたらとんでもない強度を秘めた作品だった。決して安易な結論に飛びつかない姿勢が好ましい。③はオフビートな暴力映画の傑作。突拍子もなく噴出する暴力と、全編に漂う不気味なユーモアは何となくジョン・ワッツの快作『COP CAR/コップ・カー』を想起させる。黒沢清は与えられた予算や環境に合わせて、きっちりと自分の映画を取り上げる職人監督的な面も持っているが、④は限られた予算の中で易々とゴージャスな歴史ドラマを作り上げてしまった手腕に驚嘆した。その上でB級映画的な軽みも併せ持っているのも好ましい。⑤は上の子供が高校受験を控えているというのに、相変わらずゲームや映画にしか興味が無い、私の様な人間にとっては身につまされる作品だった。長編第1作でこの完成度は脱帽の一言。クラシックなモンスター映画にアクチュアルな問題意識を注入し、まさに今観るべきホラー映画として蘇らせた⑥は『ミッドサマー』と共に2020年ホラー映画の収穫だろう。⑦は精密機械の設計図の様に計算され尽くした演出が冴え渡る一作。カメラの構図、音楽、脚本、美術どれひとつ取っても間然するところがない。⑧は言わずもがな。アカデミー&カンヌをW受賞、日本でも大ヒットして先日TV放映までされたのだから内実共に文句の付けようがない。本作を正月に観た時は、これを超える映画が2020年に現れるとはとても思えなかったのだが、色々と出てくるもんだ。いずれにせよ、今までいい意味で煮え切らない映画を撮り続けてきたポン・ジュノの最高傑作である事は間違いない。⑨のキム・ボラは、佐藤快磨と共に2020年の新人賞だろう。昨年は『82年生まれ、キム・ジヨン』が話題を集めたが、映画的な完成度はこちらの方が数段上。⑩は、自分たちが本当に楽しめる映画を女性たちが自ら作り始めた、という近年のハリウッド映画の流れを象徴する一作。主演2人の演技も良かったし、選曲も素晴らしかった。
まあ、そんなところかな。緊急事態宣言下でなかなか新作映画も観れていないのだが、次回からは2021年公開作品の感想を書いていきたい。