事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

リック・ローマン・ウォー『エンド・オブ・ステイツ』

 

ジェラルド・バトラーの当たり役、マイク・バニングシリーズもはや3作目。一応、これで一区切りという事らしい。
このシリーズのプロットは基本的にどれも同じだ。まず映画の冒頭でテロリストがあっけなくテロを成功させる。第1作目ではホワイトハウスが占拠され、第2作目ではロンドンで同時多発テロが発生し、各国の首脳が皆殺しにされた。被害の規模は9.11どころの騒ぎではない。それが映画開始から30分ぐらいで成し遂げられてしまう。この映画の中の先進国のセキュリティはそこらへんのコンビニより甘いのである。
主人公マイク・バニングは合衆国大統領専任のシークレット・サービスだが、非常に有能な男である。どれぐらいかといえば、たった1人でテロリストのアジトに乗り込み組織を壊滅させてしまうぐらいに有能だ。冒頭で易々と大規模テロを成功させたテロリスト達が、この男の手に掛かると虫けらか何かの様にバッタバッタと死んでいく。ランボーコマンドージョン・ウィックロボコップなど、映画には様々なアクションヒーローが存在するが、私は彼こそが最強だと確信している。
第1作目は過去の失敗から立ち直れず、第一線から退いていたマイク・バニングが偶然テロに巻き込まれ、テロリストとの戦いの中で過去の自分を取り戻していく、というドラマが一応あるにはあった。しかし、バニングがシークレット・サービスに復帰した第2作目では、そうした内面的な葛藤は失われ、世界の危機を正義の執行者たるアメリカが救う、というあまりにも古臭い物語に帰着してしまう。映画の冒頭では、アメリカ軍の仕掛けた空爆によって、国際テロ組織のボスの娘が命を落とした事が悲劇の発端だという事が示されているのにもかかわらず、である。そのあまりにも能天気かつ太平楽な結論にはまだこんな事をやっているのか、と思わず鼻白んだが、これは第2作目がとにかく主人公の強さ、ヒーロー性をより際立たせる事に特化した為の弊害である。もともと、テロリストに奪われたホワイトハウスを奪還する、という意味でバニングアメリカの強さ、逞しさを体現するキャラクターであった。彼がアメリカ国内でワチャワチャやってる分には勝手にしろ、という話だが、国外に舞台を移して世界的な使命を帯びてしまうと、途端にその独善性が鼻についてくる。そもそも、お前らが勝手に決めた価値観で全部押し通そうとするからこんな事になったんだろ!という疑問が拭えない。
第2作目の反省からか、今作はもう1度アメリカ国内に舞台を限定し、マイク・バニングが大統領暗殺未遂の容疑者として国家に追われる、というひとひねりした設定になっている。『逃亡者』とか『エネミー・オブ・アメリカ』の様な、巻き込まれ型サスペンスに回帰している訳だ。しかし、そうした冤罪サスペンスというのは国家対個人の戦いであり、圧倒的な力の差をその場の機転や同志達の協力などで乗り越えていく、という点が見どころなのに対し、マイク・バニングは地球上最強の男なので力づくで解決していく。赤子の手を捻る様に殺されていくテロリスト達を見ていると、どちらかといえば『ランボー』1作目のテイストに近いのではないか、と思った。
本作の『ランボー』っぽさを補強するのが、ニック・ノルティ演ずるマイク・バニングの父親、クレイ・ バニングである。ベトナム戦争時代は特殊部隊にでも所属していたのだろうか、この男は自らが隠遁生活を送る山のそこかしこにとんでもない量の爆薬を仕掛け、父親のもとに身を寄せたマイク・バニングを追って山に足を踏み入れた敵を次々と爆殺していく。どう考えても違法行為、親子揃ってどちらがテロリストなのか分からなくなってくるが、このシーンの滅茶苦茶さは本作一番の見どころだろう。

 

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シリーズ第1作目では下院議長だったモーガン・フリーマンも第3作目では遂に合衆国大統領に。出世したな、おい。

 

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町にひょっこりやって来た薄汚い男を保安官達がいびってたら、実はそいつがベトナム特殊部隊出身だった為に皆殺しになってしまう怖いお話。特殊部隊に所属していた奴は全員超人、っていうイメージはこの映画から始まったんじゃないの?マイク・バニングもご多分に漏れず。