事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、2つの心』

 

COLD WAR あの歌、2つの心 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: Blu-ray
 

祖国から亡命しパリで音楽家として働く恋人、ヴィクトルを追ってきた歌手ズーラは、ヴィクトルの力添えによってレコードを出す事になる。楽曲はこの映画で何度も繰り返されるポーランドの伝統歌謡。楽曲はスタンダードなジャズ調にアレンジされ、フランス語の訳詞があてられる。しかし、ズーラはその詞に納得する事ができない。結局、ズーラはヴィクトルと喧嘩別れしポーランドに戻ってしまう。

彼女が不満を覚えた理由はいったい何だったのか。訳詞を担当したのがヴィクトルの元恋人である女流詩人だからだろうか。あるいは、親しんできた母国語から馴染みのない外国語に置き換えられたからなのか。おそらく、そのいずれでもないだろう。問題は「振り子時計は時を殺す」という、詩の内容そのものにある。訳詞を担当した詩人によるとこれはメタファーであり、「恋は時間を忘れさせる」という意味らしい。つまり、「振り子時計」は「恋によって揺れ動く心」の暗喩である。

しかし、ズーラとヴィクトルの恋は決して時間を忘れさせてくれるほど甘くはなく、逆に時の流れに何度も翻弄され、その度に心に癒しがたい傷を刻みつけられるものだった。共産主義体制下の母国では、国策によって歌舞団の一員として働き、スターリンへの賛歌を歌っていたズーラにとって「恋は時間を忘れさせる」などという太平楽な考えこそ「ブルジョア的」として糾弾すべきものだったろう。

従って、ズーラとヴィクトルの恋の道行を見守る観客は常に時間を意識させられる。時間を歴史と読み替えてみれば、ポーランドの厳しい歴史に思い至るだろう。時間と場所を示すテロップによって章分けされたこの短い映画は、彼らが時間軸を超えた永遠へ旅立とうとフレームアウトした瞬間に幕を閉じる。彼らが目指した永遠は、物語の序盤、ズーラが歌いながら浮かび流されていった川の行き着く先にある筈だ。

 

あわせて観るならこの作品

 

芳華-Youth- [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/10/11
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中国とポーランド毛沢東スターリン。2作とも権力に翻弄される愛と芸術の行く末を描いている。『芳華-youth-』については、以前に感想も書きました。

 

リチャード・リンクレーター監督…というより、イーサン・ホークジュリー・デルピーとの共作と言っても過言ではない3部作。恋人たちにとって、時間は無限ではない。

何か面白そうな映画ある?(2019年7月前半)

あるよ。という訳で、現在上映中で気になっている映画を備忘録代わりにご紹介。筆者は奈良県在住の為、関西圏で公開中の作品に限られる。

 

パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、2つの心

いかにも「名作ですよ」という感じのクラッシックな画作り(モノクロだからという訳でもない)で何となく内容が予想できてしまう…カンヌで監督賞を獲ったのだからそりゃ名作だろうと言われてしまうとそれまでだが。日本公開を心待ちにしていた1本。

 

ルーカス・ドン『Gilr/ガール』

これもセクシャルマイノリティとバレエ、というテーマで何となくこんな映画かなあ、と予想がついてしまうのだが。しかし、その手の映画では『ナチュラルウーマン』という予想外の展開を見せる作品があったりするから侮れない。

 

クリストファー・ランドン『ハッピー・デス・デイ』

こういう一発アイデアのホラーは公開中に観に行かないといけない。最近だと、『クワイエット・プレイス』が面白かった。ただ、シリアルキラーがかぶっているマスクが『ハロウィン』や『スクリーム』に比べていまいちパッとしない。7/12には続編の『ハッピー・デス・デイ 2U』が日本公開されるので、急いで観に行かなくては。


藤井直人『新聞記者』

安倍に似た総理大臣が空母の甲板で下痢を垂れ流しながらのたうち回っているところを新聞記者が袋叩きにする映画を期待してしまう。多分、そんな映画ではないのだろうが…こうした作品がいくつ作られても、結局は何も変わらない現実に対し、ガス抜きの役割しか果たさないのか。それはまだ分からない。その意味で、参議院選挙前に公開された事は意義深い。


菅原伸太郎『いちごの唄』

銀杏BOYZとかには全く興味がありません。ただ、岸井ゆきのが出演しているから観たいだけ。とりあえず『愛がなんだ』は絶対に観ておくべき傑作。


こんなとこかな。気が向いたら7月後半にも更新する予定。
 

フレデリック・ワイズマン『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』


フレデリック・ワイズマンの新作『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を観て驚くのは、金の話が非常に多いという事である。図書館の幹部たちはニューヨーク市からより多くの予算を獲得するためにはどうすれば良いのか、また民間からの寄付をどの様に集めれば良いのかを常に議論し続けている。公共施設というと何となく予算は予め決まっていてその範囲内でやりくりするだけと思っていたが、そのイメージは覆された。彼らは、より多くの資金を獲得するための努力を日々続けているのであり、本作でそうした姿を強調しているのはワイズマンのリアリズムに対する信念のなせる技だろう。

図書館側が資金を求めるのは、私たちが通常考えている様な図書館の役割―単なる「書庫」という範疇を大きく超えて、ニューヨークが抱える様々な問題に積極的に関わろうとしているからだ。本館以外に100近くの分館を有するこの図書館は、その地域に応じて労働問題や人種差別問題、貧困問題などありとあらゆる分野に対応したワークショップや講演会、生活支援などを行っている。その視線は常に社会的弱者に向いており、この様な施策実現のために市から予算を獲得しようとするのは、公共施設は「富の再分配」を担う機関であるべきだ、という理念が共有されているからだろう。

この多様な視点は蔵書の選定についてもはっきりと反映されている。予算を獲得するには読者の多い=売れている本を数多く揃えるべきである。しかし、彼らはどんなに専門的で読者が少ない本でも、文化の保全という意味において蔵書に加えるべきだと主張する。実際、この映画で映し出される図書館の利用者たちの中には、一体そんな事を調べて何の意味があるのか、と疑問に思う様な事について図書館に助けを求める者が数多くいる。そして、図書館のスタッフたちは感嘆すべき知識と熱意をもって、利用者たちの相談に応えていくのである。

昨今、わが国では売れない本は存在する意味が無いとばかりに、独善的な態度を態度を示して恥じない出版社が話題になっている。彼らに欠けているのは出版事業が文化の一部を担っているという自負と、どんな本であれそれを必要としている人がどこかにいる、という想像力なのではないか。要するに、公共意識が欠落しているのだ。

ニューヨーク公共図書館の前に立つ2頭のライオン像には、各々「Patience(忍耐)」及び「Fortitude(不屈の精神)」という名前が付けられている。わが国の文化的貧困を救うには、私たちがこの2つの理念を忘れる事なく、声をあげ続けるしかない。テアトル梅田は連日満員で立ち見客まで出る盛況ぶりだった。ここに集う人々の姿に希望を感じたのは私だけではないだろう。

 

あわせて観るならこの作品

 

永遠の0 Blu-ray通常版

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  • 発売日: 2014/07/23
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観てないけど。

 

海賊とよばれた男 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2017/07/05
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観るつもりもないけど。

今泉力哉『愛がなんだ』

 

愛がなんだ (特装限定版) [Blu-ray]

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中目黒のクラブミュージックがガンガンにかかっているお洒落なバーに呼び出された成田凌が、明らかに自分とは生きている世界が違うパリピに囲まれて居心地の悪い思いをしながら、ボッチになっている事を気づかれたくないので(あるいは自分で気づきたくないので)、周りの話にあいづちを打ちながら必死に会話に加わっている風を装う。

勝手にふるえてろ』で無理やり勤め先の飲み会に誘われた松岡茉優が、トイレに行くふりをして店を出るなり「Fuck!Fuck!Fuck!」と大声で叫ぶシーンには思わず「わかる!」と立ち上がりそうになったものだが、それに匹敵する名場面である。このシーンとその成田凌に飲みに誘われた岸井ゆきのが、その場で紹介された江口のりこに彼が想いを寄せている事実を突き付けられ、その帰り道に突然フリースタイルラップで江口のりこをDisり始めるシーンを見るためだけにでも映画館に走る価値はあると断言しよう。

さて、上述した2つの酒席では成田凌のテンションが天と地ほども違い、自分のフィールドでは他人に目もくれずにはしゃぎ回るくせに、いざ外に出ると途端に委縮する彼の性格が簡潔に示されている。もちろん誰にだってこうした経験には覚えがある筈だ。自分が自分らしく振る舞える領域という事なら、まずは自宅が思い当たるが、ならば他者とのコミュニケーションにおいて優位に立とうとするには、その人を自分の家に招くのが最も効果的であるに違いない。

この映画の恋愛相関図で優位に立つ成田凌深川麻衣は、常に岸井ゆきの若葉竜也を自分の家に招く。中目黒の飲み会の帰り道、初めて成田凌岸井ゆきのの家を訪れ身体を求めるのだが、この時に限って彼の男性器は機能しない。このエピソードは、自らのフィールドから外に出ると彼がいかに自信を失ってしまうかを如実に示しているのだし、実際、彼はその場で自分は人に好かれる様なものを何も持ち合わせていない、と自嘲気味に語る。

この様に、言わば地勢的な支配関係が成立した恋愛映画において、それでは彼らの変化はどうやって訪れるのか。端的に言えば「他者の領域から発せられた言葉」という事になるだろう。成田凌が己の振る舞いの残酷さに気付いたのは、岸井ゆきのの親友である深川麻衣からの電話だったのだし、若葉竜也が従属的な恋愛関係を断つ事を決意したのは成田凌の何気ない言葉からだった。今まで犬の様に呼びつけるばかりだった若葉竜也の個展を訪れた深川麻衣の変化は、岸井ゆきのとの喧嘩をきっかけにもたらされる。自らが成長、変化する端緒は常に他者や外部に存在するという、青春映画における正統な倫理観がここでも働いているのだ。

さて、それでは他者の言葉にいっさい耳を傾けようとせず、過去の自分としか向き合おうとしない岸井ゆきのは何をきっかけに、どの様に変化したのだろうか。実は、本作の難解さはこの1点に集約しているのだが、彼女が最後につぶやく言葉とラストの象の飼育場面から想像するに、彼女は「招かれる」自分を脱ぎ捨て、「招く」側に移り変わろうとしているのかもしれない。彼女の選択は恋愛映画のフォーマットからは大きく外れたものだが、そもそも『愛がなんだ』は恋愛映画ではないのである。

 

あわせて観るならこの作品

 

勝手にふるえてろ [Blu-ray]

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  • 発売日: 2018/06/06
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ディスコミュニケーション系恋愛映画の傑作。以前に感想を書いています。 私たちが恋愛映画にカタルシスを覚えるのは、何も愛する2人が結ばれた時だけではない、という事がよく分かる1作。

 

正しい日 間違えた日 [DVD]

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今泉力哉監督は日本のホン・サンスと呼ばれているそうで。こちらは以前に感想を書きました。

 

長久充『ウィーアーリトルゾンビーズ』

 

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 CMとかMV畑出身の映画監督って何か信用できないというか…「どうせ雰囲気だけなぞった小洒落た映画なんだろ!?死ね!」と思ってしまうのは頭の固い人間の偏見だとは分かっているのだが。『下妻物語』はけっこう面白かったし、スパイク・ジョーンズとかミシェル・ゴンドリーだって近年はそれなりの作品を撮っている…そもそも、映画よりCMやMVの影響を受けた作品がどんどん増えている現在、もはや監督の出自なんて関係なくなっているのかもしれない。
映画の話から少し逸れるが、最近は8bit時代(要するにファミコンとかゲームボーイの頃)のグラフィックやサウンドを疑似的に再現したゲームが大変人気である。また、サウンドについてはゲームの文脈から離れ、チップチューンという音楽の1ジャンルとして確立されるまでに至っている。チップチューンのミュージシャンの中には実際に改造したゲームボーイを楽器として使用する者もいて、本作の主人公ヒカリが持つゲームボーイ風の携帯ゲーム機もそのパロディだろう。
しかし、こうした8bit風のゲームやチップチューンは所詮、フェイクである事をまぬがれ得ない。当時のグラフィックを再現するためにいくら色数を絞っても、処理能力が段違いの最新ハード用にチューンナップされたゲームは、やはり当時のそれとはプレイフィールが根本的に異なるし、同時発音数が厳しく制限されていた当時のゲーム機から鳴る音と現在のチップチューンは全く別物だからだ。
チップチューンをサントラに採用し、筋立てを8bit時代のクラシカルなRPGに見立てた本作は、結局どこまでいっても映画のフェイクでしかない事を自覚している、という点で例えば紀里谷和明作品などとは覚悟が違う。手持ちカメラを使ったドキュメンタリータッチの映像、無邪気なルイス・ブニュエルのパロディ、iphoneで撮影されたMV風のライブシーン、特撮映画風のCG、その他ありとあらゆるポップカルチャーからの夥しい引用から構成された少年少女たちの物語は、やはりどこかで聞いた様な話なのだ。
主人公たちがRPGゲームのキャラクターの様に直線的に歩む様子を俯瞰で捉えた場面など、実はこの作品が映画に近づく瞬間は幾度もある。しかし、長久充はそうしたシーンをキッチュな映像処理ですぐに打ち消してしまう。それは作り手の奥ゆかしさの表れでもあるし、映画との距離感覚でもあるだろう。

スタッフロールが流れた後に続くシーンでは、決して本物になる事ができない私たちの、やり場のない哀しさが溢れ出る。私は、この映画を会社をずる休みして観に行った。学校をバックれたり会社をフケたり、日常生活の流れから少しだけ道を逸れて観に行くのにぴったりの作品だと思う。

黒沢清『旅のおわり世界のはじまり』

 

旅のおわり世界のはじまり [Blu-ray]

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TV番組のレポーターとしてウズベキスタンを訪れた主人公が、首都タシケントにあるホテルの部屋の窓を開けた瞬間、不意に強い風が吹き込み、窓に掛かっていたレースカーテンが踊るようにたなびく。黒沢清の映画ではおなじみの半透明の幕がまたもや登場した事を観客は知り、これまでの映画では半透明の幕が日常と異世界を繋ぐ扉として機能していた事を思い出し、それでは窓の外に広がるウズベキスタンの風景こそがその異世界なのだと納得するだろう。

実際、ウズベキスタンでオールロケを敢行した本作では、ウズベク語で話すエキストラが多数登場するものの、彼らの台詞に字幕が付く事は無い。観客は日本からやってきたTVクルーと同じく、通訳の力を借りる事でしか彼らの言葉を理解できないのである。英語を解する者すらほとんどいない国で、前田敦子演じるレポーターは異世界に迷い込んだアリスの様に戸惑いの表情を見せる。何を話しかけられても「I Can't Understand…」と片言の英語で返すしかない彼女は、まるで話しかける様に日本にいる恋人とLINEのやり取りをするのに対し、ウズベキスタンの人々とも一緒にやってきたTVスタッフ達ともろくに会話を交わそうとしない。その意味で、主人公にとっての異世界とは何もウズベキスタンに限った話ではなく、他者そのものだと言える。

一人きりで異国の街を彷徨い、柵を乗り越えて舗装していない裏道をわざわざ選び、地元の警察に追いかけられて薄暗い地下道にまで逃げ込む彼女は、旅のはじまりから「迷子」になる事を希求していた。それは自身を縛る軛から解き放たれ、自由へと歩きだそうとする意志の表れだろう。しかし、どれだけ歩いたところで閉ざされた心のままでは外部に辿り着く事はできない。黒沢清の真骨頂とも言えるホラー演出が効いた逃走劇の末、とうとう捕えられた主人公に警察署長が語る言葉は、彼女と外部を隔てていた扉を開き、未知の世界へと誘う鍵として作用するが故に感動的なのだ。前田敦子ウズベキスタンの山岳で「愛の賛歌」を歌うラストシーンで、彼女がやっと真の「迷子」になれた事を私たちは知る。

 

あわせて観るならこの作品

 

セブンスコード

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黒沢清×前田敦子のコラボレーションはこの長編PVから始まった。こちらも異国の地を彷徨う少女を主人公としているが、最後にあっと驚く超展開が待っているのだった… 

マイケル・ドハティ『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

 

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ DVD2枚組

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テリーマンをご存じだろうか。

漫画『キン肉マン』のキャラクターである。キン肉マンの親友として初期から登場する彼は、正義超人の一人として敵と戦う以外に、解説者という重要な役割を担っている。例えば、敵が新たな技を繰り出したり、特殊な能力を発動させた場合に「そういえば聞いた事がある…」と、やおらその技や能力について解説を始めるのだ。言わば、作者と読者の橋渡し的な役割である。連載が後半になると、テリーマンでは太刀打ちできない強力な敵が登場する為、ますます解説者としての比重が大きくなった、と記憶している。

何でこんな話から始めたかというと、基本的に怪獣映画に登場する人間は、テリーマン的な役割に甘んずる事が多いからだ。そもそも、人間が怪獣と戦って勝つ事など不可能である。人間が持つ兵器など怪獣の強さを引き立てる役割しか果たさない。その為、例えばゴジラキングギドラがくんずほぐれつの大乱闘を演じている時、人間はただ指をくわえて見守っているしかない。仕方がないので「ああ!ゴジラの攻撃が全く効かない!奴は無敵だ!」とか「そうか…キングギドラX星人が操っているんだ!」とかいった解説をちょいちょい挟む。それしかやる事がないのである。

前作『GODZILLA ゴジラ』は怪獣映画としてのお約束は守りつつ、人間側のドラマの比重を増やしバランスの良い作品に仕上がっていた。これは『シン・ゴジラ』についても同様だが、ただ、この2作とは比べ物にならないほど大量の怪獣が登場する『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の様な作品では、どうしても人間が介入する余地が少なくなり、単なる怪獣プロレスになってしまう。その辺りを製作陣はどの様に解消しているのだろうか。

まず、世界中で発見された怪獣を管理、保全する特務機関が登場する。彼らは、眠り続ける怪獣を常に監視し、また怪獣とコミュニケーションを取る方法を研究中である。そこをテロリストが襲撃し、怪獣を次々と目覚めさせてしまう。怪獣が大量破壊兵器として利用されてしまうのだ。この設定は上手い。人間が積極的に怪獣に関わる設定を設ける事で、従来の傍観者に過ぎない立場から脱皮させている訳だ。この調子で最後までいってくれれば良かったのだが…案の定、怪獣同士の戦いが始まると人間側は途端にやる事が無くなってしまう。「これじゃいかん!」とばかりに、主人公たちは様々な手段を繰り出すのだが、これがもう単なる思いつきとしか言えない愚策の連続なのである。

キングギドラゴジラが海洋で大乱闘を演じる中、未確認生物特務機関モナークのスタッフは、母艦の指令室でその行く末を見守っていた。突然、軍部から指令室に連絡が入る。ゴジラファンにはおなじみのオキシジェン・デストロイヤー、半径3km以内の生物を死滅させる破壊兵器を使うので、その場から退却しろ、というのだ。渡辺健演じる芹沢博士は怪獣と人類の共生を願う立場から、ゴジラキングギドラを倒してくれる事を信じましょう、と反対する。しかし、軍部の責任者はこう言うのだ。

「もう発射した!早く逃げろ!」

馬鹿なのか。まだ現場近くに味方が残っているのに、発射してから連絡するとはどういうつもりだ。母艦がトラブルで動けなかったり、連絡がつかなかったりしたらどうする気だったんだ。

オキシジェン・デストロイヤーはキングギドラには全く通用せず、ゴジラに甚大なダメージを与えてしまう。ついでに、大量の海洋生物も死滅した。この結果について、誰1人責任を取ろうとしないし検証も行わない。ただ、みんな揃って頭を抱えるばかりである。

しかし、朗報がもたらされる。実はゴジラは死んでおらず、海底洞窟で眠り体力の回復を図っていたのだ。潜水艦で急行するモナーク。ようやくゴジラを発見するが、ゴジラは眠り続けいつ目覚めるかも分からない。このままではキングギドラに地球が破壊されてしまう。

「よし!ゴジラに核ミサイルをぶち込んで目覚めさせよう!」

そんな事をしてゴジラが人間に敵意を持つ可能性、衰えているゴジラにとどめを差してしまう可能性を誰も考慮しない。お前らは本当に特務機関の人間なのか。そもそも、芹沢博士は前作で怪獣に対して核兵器を使う事を広島の原爆まで持ち出して反対してたんじゃないのか。

しかし、ここでトラブル発生!潜水艦のミサイル発射装置が故障してしまったのだ。一度基地に戻り、修理をするか別の潜水艦を応召するか…芹沢博士が口を開く。

「ミサイルの核弾頭を手で持ち込んで、手動で爆発させるわ。俺も死ぬけど」

成功するかどうかも分からない、というかその検証すら行われていない計画に命を懸ける博士。あんぐりと口を開けている観客を余所に、登場人物たちは涙を流す。前作もそうだが、本作の登場人物たちは核弾頭を手で運ぶ事に異常な執着を示す。

とまあ、始終こんな感じで行き当たりばったりの作戦を立て、何の躊躇も無く実行し、それが上手くいってしまう。確かに、こんな怪獣が大量に出てきたらもう運に頼るしかないのだろうが…その結果オーライの姿勢が極まったのが、何もかもがご都合主義的になし崩しで解決するスタッフロールである。初代ゴジラの精神を完全に無視したこの展開は、核の平和利用をアピールする目的でもあるのだろうか。

とはいえ、全ての整合牲を犠牲にしてまで見せたかったであろう、怪獣のバトルシーンはさすがに気合が入っている。キングギドラの様などう考えても生物学的にあり得ない体型を着ぐるみ感を出さずに再現したのも賞賛に値する。確かに、プロットは突っ込みどころが多すぎるが、それも含めて怪獣映画としては及第点と言えるだろうか。

 

あわせて観るならこの作品

 

GODZILLA ゴジラ[2014] Blu-ray2枚組

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  • 発売日: 2015/02/25
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 まあ、こっちはこっちでおかしな所はたくさんあったのだが…前作の登場人物が引き続き登場し、その前作と矛盾する言動を繰り返すのでよく分からなくなった。

 

キングコング:髑髏島の巨神 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2017/12/16
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秘境探検映画と怪獣映画をミックスさせた快作。サミュエル・L・ジャクソンの持ちネタ「マザファッカ!」も堪能できます。次回はゴジラVSキングコングらしいが…