事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

マイケル・ドハティ『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

 

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ DVD2枚組

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  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: DVD
 

テリーマンをご存じだろうか。

漫画『キン肉マン』のキャラクターである。キン肉マンの親友として初期から登場する彼は、正義超人の一人として敵と戦う以外に、解説者という重要な役割を担っている。例えば、敵が新たな技を繰り出したり、特殊な能力を発動させた場合に「そういえば聞いた事がある…」と、やおらその技や能力について解説を始めるのだ。言わば、作者と読者の橋渡し的な役割である。連載が後半になると、テリーマンでは太刀打ちできない強力な敵が登場する為、ますます解説者としての比重が大きくなった、と記憶している。

何でこんな話から始めたかというと、基本的に怪獣映画に登場する人間は、テリーマン的な役割に甘んずる事が多いからだ。そもそも、人間が怪獣と戦って勝つ事など不可能である。人間が持つ兵器など怪獣の強さを引き立てる役割しか果たさない。その為、例えばゴジラキングギドラがくんずほぐれつの大乱闘を演じている時、人間はただ指をくわえて見守っているしかない。仕方がないので「ああ!ゴジラの攻撃が全く効かない!奴は無敵だ!」とか「そうか…キングギドラX星人が操っているんだ!」とかいった解説をちょいちょい挟む。それしかやる事がないのである。

前作『GODZILLA ゴジラ』は怪獣映画としてのお約束は守りつつ、人間側のドラマの比重を増やしバランスの良い作品に仕上がっていた。これは『シン・ゴジラ』についても同様だが、ただ、この2作とは比べ物にならないほど大量の怪獣が登場する『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の様な作品では、どうしても人間が介入する余地が少なくなり、単なる怪獣プロレスになってしまう。その辺りを製作陣はどの様に解消しているのだろうか。

まず、世界中で発見された怪獣を管理、保全する特務機関が登場する。彼らは、眠り続ける怪獣を常に監視し、また怪獣とコミュニケーションを取る方法を研究中である。そこをテロリストが襲撃し、怪獣を次々と目覚めさせてしまう。怪獣が大量破壊兵器として利用されてしまうのだ。この設定は上手い。人間が積極的に怪獣に関わる設定を設ける事で、従来の傍観者に過ぎない立場から脱皮させている訳だ。この調子で最後までいってくれれば良かったのだが…案の定、怪獣同士の戦いが始まると人間側は途端にやる事が無くなってしまう。「これじゃいかん!」とばかりに、主人公たちは様々な手段を繰り出すのだが、これがもう単なる思いつきとしか言えない愚策の連続なのである。

キングギドラゴジラが海洋で大乱闘を演じる中、未確認生物特務機関モナークのスタッフは、母艦の指令室でその行く末を見守っていた。突然、軍部から指令室に連絡が入る。ゴジラファンにはおなじみのオキシジェン・デストロイヤー、半径3km以内の生物を死滅させる破壊兵器を使うので、その場から退却しろ、というのだ。渡辺健演じる芹沢博士は怪獣と人類の共生を願う立場から、ゴジラキングギドラを倒してくれる事を信じましょう、と反対する。しかし、軍部の責任者はこう言うのだ。

「もう発射した!早く逃げろ!」

馬鹿なのか。まだ現場近くに味方が残っているのに、発射してから連絡するとはどういうつもりだ。母艦がトラブルで動けなかったり、連絡がつかなかったりしたらどうする気だったんだ。

オキシジェン・デストロイヤーはキングギドラには全く通用せず、ゴジラに甚大なダメージを与えてしまう。ついでに、大量の海洋生物も死滅した。この結果について、誰1人責任を取ろうとしないし検証も行わない。ただ、みんな揃って頭を抱えるばかりである。

しかし、朗報がもたらされる。実はゴジラは死んでおらず、海底洞窟で眠り体力の回復を図っていたのだ。潜水艦で急行するモナーク。ようやくゴジラを発見するが、ゴジラは眠り続けいつ目覚めるかも分からない。このままではキングギドラに地球が破壊されてしまう。

「よし!ゴジラに核ミサイルをぶち込んで目覚めさせよう!」

そんな事をしてゴジラが人間に敵意を持つ可能性、衰えているゴジラにとどめを差してしまう可能性を誰も考慮しない。お前らは本当に特務機関の人間なのか。そもそも、芹沢博士は前作で怪獣に対して核兵器を使う事を広島の原爆まで持ち出して反対してたんじゃないのか。

しかし、ここでトラブル発生!潜水艦のミサイル発射装置が故障してしまったのだ。一度基地に戻り、修理をするか別の潜水艦を応召するか…芹沢博士が口を開く。

「ミサイルの核弾頭を手で持ち込んで、手動で爆発させるわ。俺も死ぬけど」

成功するかどうかも分からない、というかその検証すら行われていない計画に命を懸ける博士。あんぐりと口を開けている観客を余所に、登場人物たちは涙を流す。前作もそうだが、本作の登場人物たちは核弾頭を手で運ぶ事に異常な執着を示す。

とまあ、始終こんな感じで行き当たりばったりの作戦を立て、何の躊躇も無く実行し、それが上手くいってしまう。確かに、こんな怪獣が大量に出てきたらもう運に頼るしかないのだろうが…その結果オーライの姿勢が極まったのが、何もかもがご都合主義的になし崩しで解決するスタッフロールである。初代ゴジラの精神を完全に無視したこの展開は、核の平和利用をアピールする目的でもあるのだろうか。

とはいえ、全ての整合牲を犠牲にしてまで見せたかったであろう、怪獣のバトルシーンはさすがに気合が入っている。キングギドラの様などう考えても生物学的にあり得ない体型を着ぐるみ感を出さずに再現したのも賞賛に値する。確かに、プロットは突っ込みどころが多すぎるが、それも含めて怪獣映画としては及第点と言えるだろうか。

 

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 まあ、こっちはこっちでおかしな所はたくさんあったのだが…前作の登場人物が引き続き登場し、その前作と矛盾する言動を繰り返すのでよく分からなくなった。

 

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