事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

フォン・シャオガン『芳華-Youth-』

 

芳華-Youth- [Blu-ray]

芳華-Youth- [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/10/11
  • メディア: Blu-ray
 

70年代の中国を舞台に、国策歌劇団「文工団」に所属する少年少女たちの青春を描いた大河ドラマ。私は本作の監督、フォン・シャオガンという人を初めて知ったが、とにかくエンターテインメントとしての完成度が半端ではない。国策に身を捧げる事を運命づけられた若者たちが抱える密かな鬱屈と、日々の抑圧を食い破る様に出現する生の喜び。赤と白の鮮やかな色彩に彩られた布地が風に翻る中で、若者たちは自身の外と内でぶつかり合う矛盾を振り切るかの様に肉体を躍動させる。中国の伝統舞踊とバレエをミックスした様なその踊りは、画一的な振り付けでありながら身体を大地のくびきから解放し、魂を自由へと誘う。誰もいない夜の練習場で一心に踊り続ける少女シャオピンの姿はあまりにも美しい。

文工団の少年少女たちの姿を描いた、映像美あふれる序盤だけでも青春映画としては一級品なのだが、映画は中越戦争という中国共産党黒歴史が彼らにもたらした悲劇をも描いていく。文工団から野戦病院へ転属され、血まみれの傷病兵を看護するシャオピンの姿を捉えたカメラは、もうひとりの主人公リュウ・フォンへと対象を移し、彼の所属する部隊が奇襲を受ける様をワンカットで追い続ける。『プライベート・ライアン』の影響を受けたと思われるその過酷な戦闘描写にショックを受ける人もいるだろうが、その戦闘が始まる直前、進軍するリュウ・フォンたちの前に白い蝶が羽ばたいていた事を思い出して頂きたい。そこから、映画は肉片と血が飛び散る、赤く染め上げられた凄惨な場面へと移行するのだ。この赤と白の対比は若者たちの運命を暗示するものとして何度も映画に登場する。この赤が中国共産党による一党独裁体制、その保持の為に流された血を象徴しているのは明白である。

序盤、中盤だけでも相当なボリュームなのだが、本作では鄧小平による改革開放政策以後の若者たちの姿をも追い続ける。ドラスティックな社会の変化に適応する者、過去に足を絡め取られ不器用な生を送り続ける者。ここでは、既に峻烈な赤も清純な白も画面からは失われ、曖昧な暗さを湛えた色調に統一されている。歴史に翻弄され続けたシャオピンとリュウ・フォンが肩を寄せ合うラストに至り、彼らが失い、そして得たものの大きさに観客は気づき涙するに違いない。

 

あわせて観るならこの作品

 

牯嶺街少年殺人事件 [Blu-ray]

牯嶺街少年殺人事件 [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/11/02
  • メディア: Blu-ray
 

以前に感想も書いた、台湾映画の巨匠、エドワード・ヤンの傑作。こんな感じの映画なのかなと思いきや…

 

プライベート・ライアン [Blu-ray]

プライベート・ライアン [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: Blu-ray
 

途中から『プライベート・ライアン』の冒頭みたいなゴア描写満載の戦争シーンが延々と続くのでびっくりする。