事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

長久充『ウィーアーリトルゾンビーズ』

 

WE ARE LITTLE ZOMBIES [Blu-ray]

WE ARE LITTLE ZOMBIES [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/02/05
  • メディア: Blu-ray
 

 CMとかMV畑出身の映画監督って何か信用できないというか…「どうせ雰囲気だけなぞった小洒落た映画なんだろ!?死ね!」と思ってしまうのは頭の固い人間の偏見だとは分かっているのだが。『下妻物語』はけっこう面白かったし、スパイク・ジョーンズとかミシェル・ゴンドリーだって近年はそれなりの作品を撮っている…そもそも、映画よりCMやMVの影響を受けた作品がどんどん増えている現在、もはや監督の出自なんて関係なくなっているのかもしれない。
映画の話から少し逸れるが、最近は8bit時代(要するにファミコンとかゲームボーイの頃)のグラフィックやサウンドを疑似的に再現したゲームが大変人気である。また、サウンドについてはゲームの文脈から離れ、チップチューンという音楽の1ジャンルとして確立されるまでに至っている。チップチューンのミュージシャンの中には実際に改造したゲームボーイを楽器として使用する者もいて、本作の主人公ヒカリが持つゲームボーイ風の携帯ゲーム機もそのパロディだろう。
しかし、こうした8bit風のゲームやチップチューンは所詮、フェイクである事をまぬがれ得ない。当時のグラフィックを再現するためにいくら色数を絞っても、処理能力が段違いの最新ハード用にチューンナップされたゲームは、やはり当時のそれとはプレイフィールが根本的に異なるし、同時発音数が厳しく制限されていた当時のゲーム機から鳴る音と現在のチップチューンは全く別物だからだ。
チップチューンをサントラに採用し、筋立てを8bit時代のクラシカルなRPGに見立てた本作は、結局どこまでいっても映画のフェイクでしかない事を自覚している、という点で例えば紀里谷和明作品などとは覚悟が違う。手持ちカメラを使ったドキュメンタリータッチの映像、無邪気なルイス・ブニュエルのパロディ、iphoneで撮影されたMV風のライブシーン、特撮映画風のCG、その他ありとあらゆるポップカルチャーからの夥しい引用から構成された少年少女たちの物語は、やはりどこかで聞いた様な話なのだ。
主人公たちがRPGゲームのキャラクターの様に直線的に歩む様子を俯瞰で捉えた場面など、実はこの作品が映画に近づく瞬間は幾度もある。しかし、長久充はそうしたシーンをキッチュな映像処理ですぐに打ち消してしまう。それは作り手の奥ゆかしさの表れでもあるし、映画との距離感覚でもあるだろう。

スタッフロールが流れた後に続くシーンでは、決して本物になる事ができない私たちの、やり場のない哀しさが溢れ出る。私は、この映画を会社をずる休みして観に行った。学校をバックれたり会社をフケたり、日常生活の流れから少しだけ道を逸れて観に行くのにぴったりの作品だと思う。