事件前夜

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リチャード・リンクレイター『30年後の同窓会』

 

30年後の同窓会 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2018/12/04
  • メディア: Blu-ray
 

本作がハル・アシュビーによるアメリカン・ニューシネマの名作『さらば冬のかもめ』の精神的続編(キャストやキャラクター名が一新され、設定も若干だが変更されている)として構想されたと聞き、なるほどと思った。盗みを働き海軍刑務所送りとなった新米兵と、彼を護送する任務を負った2人の海軍士官の友情を描く『さらば冬のかもめ』において、彼らの友情や交流が、あくまで期限付き―新米兵をポーツマスの軍刑務所へ送り届けるまで―のものであったという点は重要だ。なぜなら、リチャード・リンクレイターはこの「期限」が課せられた中での人々の繋がりを描き続けてきたからである。
例えば、『恋人までの距離』におけるイーサン・ホークとジェリー・デルピーの逢瀬は、夜明けまでという「期限」付きであった筈だ。前作『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』の野球部員たちも、幸福な学生時代の終わりを予感していたからこそ、あれだけの享楽に身を任せていられたのである。彼らは、常に別れを意識しているが故に、夥しい量の言葉で別れまでの時間を埋めようとする。リンクレイターのほとんどの映画が会話劇という形を取るのもその為だ。そこでは、会話の内容そのものにはほとんど意味が無い。作り手が観客に伝えようとするメッセージも無い。大部分が他愛もない話と言ってしまえばそれまでである。残酷な時間の流れに対抗すべく放たれる、言葉の量こそが問題なのだ。『さらば冬のかもめ』では、主人公3人の旅路の遅延―本来なら2日で着くぐらいの道程をだらだらと引き延ばす事―が権力への精いっぱいの反逆として描かれていた。溢れ出す言葉と不謹慎なばか騒ぎによって、人間をベルトコンベア上の部品と見なす権力に抗い、その円滑な目的の遂行を阻害する事。そのレジスタンスは本作にも受け継がれていると言えるだろう。
確かに、本作の主人公たちが劇中で共にする時間は、『ビフォア~』三部作の様な幸福なものではないかもしれない。それでも、イラク戦争で戦死した息子を埋葬する為の―『さらば冬のかもめ』の道程を逆戻りするかの様な―ノーフォークからポーツマスまでの旅は彼らにとってかけがえのない時間だった筈だ。いずれ過ぎ去ってしまう事が運命づけられた時間を繋ぎ止めようと、男たちは寒空の下、終わる事なく喋り続ける。

 

あわせて観るならこの作品

 

さらば冬のかもめ [DVD]

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  • 発売日: 2016/08/02
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何なんだ、このジャケットは…と思うかもしれないが、ハル・アシュビーによるロード・ムービーの傑作です。リンクレイターは当初、本作の正当な続編を企画していたが、ジャック・ニコルソンランディ・クエイドの出演が叶わなかった為、今回の様な形になったとの事。