ウェス・アンダーソン『犬ヶ島』

犬ヶ島 [AmazonDVDコレクション]

寿司を握る場面と腎臓移植手術の場面がとにかく素晴らしい。まず、ストップ・モーション・アニメでこんなシーンを入れようと考える事自体が異常だし、肉体に刃物を入れる描写のリアルさにはエロスさえ感じさせる。ウェス・アンダーソン監督のストップ・モーション・アニメは初めて観たが、その病的なまでの作り込みは実写作品同様である。
繰り返しのギャグ、巧みな伏線、優雅な横移動撮影など、ウェス・アンダーソン映画のエッセンスは存分に盛り込まれているが、本作の最大の特徴はやはり、近未来の日本を舞台に選んでいる事だろう。とは言え、この監督の事だから一筋縄ではいかない。本作に登場する日本は浮世絵、力士、寿司、歌舞伎、俳句といった伝統文化から歴史的意味を排除し、監督自身の美学に基づいて思うがままに配置した、絢爛豪華な曼荼羅世界なのである。それは意図的に目指したデタラメであるが故に、安易なオリエンタリズムとは無縁だ。そもそも、この監督の作品はどれだけ優雅で繊細に作り込まれてあってもどこかにキッチュな味が残されていて、それがまた唯一無二の魅力となっているのだが、本作の様なストップ・モーション・アニメの方が、その魅力は伝わりやすいかもしれない。