事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

アーロン・ソーキン『モリーズ・ゲーム』

 

モリーズ・ゲーム [DVD]

モリーズ・ゲーム [DVD]

  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: DVD
 

この作品は、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』とセットで観て欲しい。どちらも実話をベースにした作品であり、男性優位の社会で苦闘する「悪女」たちの姿を饒舌な台詞回しで描いている。自らの才覚で頂点を極めた女性がスキャンダルによって凋落し、世間から非難を浴びる。信頼していた人々から裏切られ、全てを失った彼女たちがどん底から立ち上がろうとする姿。この2作がボクシングやモーグルの場面で幕を閉じるのは、彼女たちの「再生」をスポーツによって象徴しているからだろう。どちらも主人公がウインタースポーツの選手という点も共通しているが、本作ではそこに精神分析的な解釈を付与しているようだ。映画の後半、ジェシカ・チャステインアイススケートをする場面。彼女は監視員に追いかけられながら、猛スピードで滑走する。しかし、アイススケートが常に「水平」に滑るスポーツである以上、彼女が本当に知りたい真実―なぜ、自分がこの場所に立っているのか、なぜ、不可解なまでの焦燥感に駆り立てられながら成功を追い求めているのか、その理由を見出す事はできない。彼女がその答えを発見するには精神分析医である父との対話(診療)によって、「垂直」的にイドを掘り下げる必要があった。この場面における診療は、父親側の観点からは懺悔の意味合いも帯びているのだが、他者への赦しによって彼女には救いがもたらされる。上から下へ滑り降りるモーグルで事故にあった彼女が立ち上がり、血まみれのまま「水平」に歩きだすラストシーンに至り、彼女が「完治」した事を観客は知るだろう。