事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ローリーン・スカファリア『ハスラーズ』

実際にあった事件を脚色して映画化、というのは珍しくも何ともないが、調べたところ別に原作となったルポルタージュやノンフィクションがある訳ではなく、ニューヨークマガジンに掲載された2015年の記事を元にしているらしい(劇中にも、女性記者が主犯格の1人であったデスティニーにインタビューする場面が挿入されている)。要するに、単なる三面記事から想像を膨らませ、ジェンダーやエンパワーメントといったアクチュアルな問題意識を挿入して1本の映画に仕立て上げた、という事だろう。こういうフットワークの軽い映画の作り方は、個人的には非常に好ましい。
ただ、女性記者によるインタビューの場面は、主人公たちの行為を相対化する意味で入れたのだろうが、ドラマ部分に拮抗する程の印象を観客に与えない為、例えば『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の様な批評性を持ち得ていない。ローリーン・スカファリアは、劇中でインタビューを受けるデスティニーが自分たちの物語をコントロールする事で、自立した人間としての尊厳を回復しようとする過程を描きたかった、と言うが、実際には作り手が一種のドラマツルギーとして映画をコントロールしようとする意志が透けて見えてしまうのである。この映画について、主人公たちの行為に嫌悪感を抱く人が意外に多いのは(それはそれで随分と偏った正義感だとは思うが)、この相対化の仕掛けが上手くいっていないからだろう。
とはいえ、本作のドラマ部分はもう1人の主犯格ラモーナを演じるジェニファー・ロペスのフィジカルな魅力もあって非常に楽しい仕上りになっている。デスティニーを演じたコンスタンス・ウーも、罪悪感に襲われながらズルズルとラモーナの計画に引きずり込まれてしまう微妙な犯罪心理を上手く演じていた(『クレイジー・リッチ!』の時とは比べものにならないぐらいブスだったのが気になったが…)。マーティン・スコセッシのギャング映画の女性版、みたいな例え方をする人もいるが、メンバーの中に、どう考えてもこいつに任せたらヤバイだろう、というボンクラがいて、案の定そいつのせいで全員がパクられる事になってしまう、という展開はなるほどギャング映画でよくあるパターンである。後、良かったのはクリスマスのパーティシーン。こういう男を完全に排除して女子だけがキャッキャ騒いでる場面は大好きなので、ここが30分ぐらい続いて欲しかったぐらい。これが男の場合だと、パーティにも普段の力関係が反映されて、何か変に仕切る奴が登場するんだよね。

 

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ショーガールを主人公にした映画という事で。まあ、ショーガールといってもサービスの内容はかなり違うのだが。 主演を務めたクリスティーナ・アギレラのパフォーマスンは圧巻の一言。

 

ポール・バーホーベンによる悪名高き一作。その露悪趣味丸出しの内容から公開当時は物議を醸したが、男性が女性たちを経済的、性的に搾取し続けるショービジネスの構造は批判的に描かれていたと思う。