事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

イ・ビョンホン『エクストリーム・ジョブ』

いやいや、とにかく楽しい映画だった。解散寸前のうだつの上がらない麻薬捜査班が、麻薬組織への潜入調査の為に、近所のフライドチキン屋を買い取り(この時点で既におかしいのだが)目くらましに商売を始めたは良いが、思いのほか店が繁盛して捜査どころではなくなってしまう、というアイデアだけでも最高なのだが、次々と繰り出されるギャグのどれもレベルが高く、私が鑑賞した映画館の中は最後まで笑いが絶えなかった。
人気ドラマ『ブレイキング・バッド』あたりが元ネタなのだろうが、そこからよくこんな馬鹿々々しい話をひねり出したものだ。押し寄せる客の対応に忙殺されているうちに、捜査班の面々にチキン屋としての自覚が生まれていく展開は、まさに捧腹絶倒ものである。しかし、実はこの点こそが本作のミソであって、彼らがチキン屋の仕事に没頭するとひょんな事から捜査が進展し、そこで職務を思い出して捜査を再開するや否や、間抜けなアクシデントが起こってまた振り出しに戻ってしまう、という構成になっている。要するに、彼らがチキン屋である時は捜査が進み、逆に麻薬捜査官である時は捜査が停滞する、という風に最後までボタンの掛け違ったまま、物語が進展していくのだ。だから、観客は矢継ぎ早に繰り出されるギャグに大笑いしている間に大団円に立ち会う事になる。
捜査班の面々はどれもキャラクターがしっかり立っていて、そのコントの様な掛け合いを観ている内に彼らの事をどんどん好きになってくる。だからこそ、最後のアガる展開には思わず手に汗握ってしまう。特に、『犯罪都市』や『守護教師』ではコワモテのマフィアを演じていたチン・ソンギュと、本作が商業映画初出演のコンミョンは、最後までボケ役に徹していて、それが見事にハマっていた。