事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

セリーヌ・シアマ『秘密の森の、その向こう』

「わたしとあなた」のままで「母と娘」である事

これは大傑作!決して長くない上映時間の中に、映画の素晴らしさが全て詰まっている!全人類が観るべき永遠のマスターピース!私もぜひ、もう1度観返したい…というのも、昼飯にラーメンを腹いっぱい食べたのが災いしたのか、映画が始まった瞬間から猛烈な眠気に襲われ、ほとんど内容を覚えていないからだった…
もちろん、途中で眠たくなったからといってその映画がつまらない、という訳ではない。しかし、世の中には眠たくなる映画と眠たくならない映画が存在するのは確かで、セリーヌ・シアマに限らずヨーロッパ系の映画は静かなタッチの、アートっぽい作品が多い(少なくとも日本で紹介されるのはそんな作品ばかりである)から、派手な展開の多いハリウッド映画に比べて寝てしまう危険性が高い様に思う。だから、どんな映画でも冒頭に鼓膜が破れるくらいの大音量で爆発音が鳴り響く、という演出を取り入れたらどうだろうか。
そんな事はどうでもいい。睡魔と戦いながらでも何とか最後まで観終えたのだから、何がしかの感想が湧いた筈である。それを思い出そうとしているのだが…何も思いつかない…何となく、ビクトル・エリセっぽいなあ、とか…いや、そんな事もないか…
ビクトル・エリセと同じく、セリーヌ・シアマの映画は非常にシンプルなプロットが核となっている。それは「ガール・ミーツ・ガール」とでも言うべきか、主人公がある女性と出会う事で世界の複雑さに対抗する術を見出していく物語である。「わたし」を絡め取る複雑な糸をひとつずつ解きほぐしていけば、最後には「わたし」と「あなた」の繋がりだけが残るだろう。『燃ゆる女の肖像』とは、画家とモデルの「見る―見られる」という支配的な関係性が、やがて「見つめ合う」2人の女の絆へと変わっていく、視線のドラマだった筈だ。従って、『秘密の森の、その向こう』で出会う2人の少女は、「母」と「娘」という関係を取り巻く複雑さから逃れ、「わたし」と「あなた」として巡り合う。その邂逅の舞台こそが「森」なのであり、その「向こう」に開かれた湖へとボートを進める経験を経て、少女たちは「わたし」と「あなた」であると同時に「母」と「娘」である事が可能となる(セリーヌ・シアマの映画において、「水」は女たちを解放へと導く重要なモチーフだ)。
本作は「タイムリープ」というSF的モチーフを採用しているものの、プロットはこれまで以上に単純明快でセリーヌ・シアマ作品のエッセンスが凝縮した様な作品である。日本のアニメに影響を受けたと公言しているだけあって非常に観やすく仕上がっており、よほどの馬鹿でない限り、途中で眠くなる事はないだろう。

 

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本作は『となりのトトロ』や『思い出のマーニー』といったジブリ作品に影響を受けたらしい。物語的には後者に近いと思われるが私は未見。