事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ハンナ・ベルイホルム『ハッチング ー孵化ー』

新鮮味に乏しいホラー映画だが、母親役の怪演は一見の価値がある

『ミッドサマー』のヒットを受けてだろうか、北欧産のホラーという点をアピールポイントにしている本作だが、映画そのものに北欧らしさはまるで感じられない。じゃあ北欧らしさって何なの?と訊かれると困るのだが、少なくとも『ぼくのエリ 200歳の少女』や『ボーダー 二つの世界』の様な作品を期待すると肩透かしを食うだろう。
歪んだ親子関係を描くファミリードラマとしてのプロットとホラー映画としてのプロットが並行して語られ、最終的に結び合わされていく、という構成もよくあるものだし、クリーチャーが主人公の深層心理の反映である、という展開にも新鮮味がない。まあ、「何だかよく分からない卵を拾って育ててたら、とんでもないものが生まれて困った」みたいな設定そのものが日本人からすると目新しくも何ともないのだが。確か『ウルトラマン』にもそんなエピソードがあった気がするし、『REX 恐竜物語』とか『ドラえもん のび太の恐竜』とか…なぜか日本人は昔から卵を拾う話が好きである。もしかすると、我が国最古の物語が『竹取物語』である事が関係しているのかもしれない…適当に書いているだけです。
それでも全く見所が無いかというとそうでもなくて、怪物の好物が飼主の少女のゲロ、という設定はなかなか面白いし(当然、ここに拒食症という要素を絡ませている)、何といっても主人公の母親役であるソフィア・ヘイッキラという女優さんの怪演は凄かった。SNSにドはまりした自己承認欲求の塊みたいな女、というキャラクター造形はいかにも類型的なのだが、その演技が気持ち悪すぎて作品のバランスを壊しているぐらいだ。そういう意味では『シャイニング』のジャック・ニコルソンを思わせる…というのは言い過ぎか。

 

あわせて観るならこの作品

 

デヴィッド・クローネンバーグ初期の傑作。人々の抱える負の感情がそのままクリーチャーとなり人を襲う。衝撃のクライマックスは必見。