事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ケヴィン・マクドナルド『ホイットニー〜オールウェイズ・ラブ・ユー〜』

 

 私は、ホイットニー・ヒューストンの熱心なファンだった訳ではないが、このドキュメンタリー作品には痛ましさを感じざるを得ない。天賦の才を持ったシンガーを人々がいかに消費しつくしたか、その残酷な事実を本作は暴露している。それは、金目当てで彼女に近づいた人々に限った話はない。また、ボビー・ブラウンの振る舞いにいくら問題があろうと晩年の彼女の不幸を彼1人のせいにする事はできないだろう。一流のシンガーであり、一流の妻であり、一流の母である事を彼女に求め続けたのは、何よりホイットニーを支持し声援を送っていた世間でもあるからだ。いったい、これほどのプレッシャーを周囲から浴びせ続けられて、まともでいられる人間など存在するのだろうか。晩年のツアーでの余りにみじめなパフォーマンスに、人々は怒り席を立つ。金を払って観る価値は無いと憤慨する。しかし、ホイットニーから声を奪ったのはあなた方ではないのかと、言いがかりである事は十分に承知しつつ、それでも言わずにはいられない。

ホイットニーから有形無形の見返りを求め続ける人々の群れ。その中に、たった1人だけ無償の愛を彼女に与えていた女性がいる。自分に都合の悪い事実以外は饒舌にまくしたてる関係者の中で、その女性だけがインタビューに応じていない事を、人々は重く受け止めるべきなのだろう。

 

あわせて観るならこの作品

 

スキャンダルに悩まされていたマイケル・ジャクソンにホイットニーが呼び出され、ホテルの1室で互いに一言も喋らず一緒にいた、というエピソードが泣ける。

 

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なぜ、この映画?という方はぜひ観てください。笑えて泣ける名作。以前に感想を書いています。