バリー・ジェンキンス『ビール・ストリートの恋人たち』

ビール・ストリートの恋人たち [Blu-ray]

『私はあなたのニグロではない』に続き、ジェイムズ・ボールドウィン作品の映画化、しかも監督は『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスなのだから、これは期待するしかない。もちろん、期待に違わぬ出来栄えだった。

前述の『私はあなたの〜』や、キャスリン・ビグロー監督『デトロイト』の様に、黒人の魂と権利を踏みにじってきたアメリカ白人社会を糾弾する様な激しさは、本作にはない。『ムーンライト』の怜悧な美しさを湛えたブルーに代わり、本作では暖かみのあるイエローが基調となっている。この明るい色調は、主人公ティッシュの愛と性に対する喜び、人生への幸福感をスクリーンの隅々にまで行き渡らせるだろう。反対に、黒人を取り巻く厳しい社会的環境については、モノクロのニュース映像風に極めて淡々と処理されている。現在も続くアメリカ社会の暗部、人種差別問題を扱っているとはいえ、本作は「怒りの歌」ではなく、あくまで「喜びの歌」なのである。とにかく、本作の黒人たちはよく笑う。肩を叩き、酒を酌み交わしながら。ふと、自らの境遇に思い至り、暗澹とした表情を浮かべる事はあるが、すぐさま笑顔に戻り、冗談を交わし合う。そう、人生には絶望している暇など無いのだ。

チョップド&スクリュードを駆使した音楽はより深化し、美しさと不穏さが代わりばんこにやってくる様な、不思議な空間を生み出している。それもまた、本作のテーマにマッチしている。

あわせて観るならこの作品

私はあなたの二グロではない [DVD]

同じく、ジェームズ・ボールドウィン原作の、こちらはドキュメンタリー。ナレーションがサミュエル・L・ジャクソンというのが良いでしょう。以前に感想も書きました。

デトロイト [DVD]

観た人すべてがこの理不尽な現実に激しい怒りを覚えるだろう。キャスリン・ビグローの緊張感あふれる演出も冴え渡り、密室劇としての出来も素晴らしい。以前に感想を書きました。

ムーンライト スタンダード・エディション [DVD]

第89回アカデミー賞に輝いた前作。音楽の使い方など、今作との共通点もあります。以前に感想を書きました。