事件前夜

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グザヴィエ・ルグラン『ジュリアン』

 

ジュリアン[DVD]

ジュリアン[DVD]

  • 発売日: 2019/07/17
  • メディア: DVD
 

「衝撃の結末」というキャッチコピーにはいささか疑問が残る。確かに、衝撃的なラストではあるのだが、意外などんでん返しなどが用意されている訳ではないので、人によっては肩すかしを食った気になるかもしれない。もう少し、うまい宣伝の仕方があると思うのだが…

それはともかく、このシンプルな筋立ての映画が成功しているのは、妻と夫それぞれの視点を交互に配置する事で、追われる者の恐怖と共に、追う者の欠落感や焦燥をも描いた点にあるだろう。確かに、この映画の加害者に完全に共感するのは無理とはいえ(そんな人がいたらすぐにセラピーを受けた方がいい)、この人物がいかに自分で自分を追い詰めていったか、その心理的過程を観客は追体験する筈だ。この映画が、非常に理知的な裁判所の調停場面から始まった事を思い出してもらいたい。そこからクライマックスにおける感情の暴発まで全く無理なく語りきっている。構成の妙と言うべきだろう。

本作では、この構成をジュリアンという11歳の少年が、離婚調停中の父母の間を隔週毎に行き来する、という設定によってスマートに処理している。少年自身が、視点切り替えの蝶番になっているのである。この映画には数多くのドアが登場するが、一度ドアを閉めてしまえば、その中で何が進行しているか、閉め出された者にはわからない。これは人の心理においても同様である。唯一、両方のドアを開ける事のできるジュリアンだけが、本作のいわゆる「衝撃の結末」を予測できただろう。

 

合わせて観るならこの作品

 

クリス・コロンバス監督作のヒューマンコメディ。正直、やってる事はどっちの親父もあまり変わらない。