事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

アスガー・ファルハディ『誰もがそれを知っている』

 

誰もがそれを知っているDVD

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  • 発売日: 2019/12/04
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オールスペインロケという事もあってか、アスガー・ファルハディというより、ペドロ・アルモドバルの映画みたいだなあ、というのが第一印象。しかも、ペネロペ・クルス主演となればどうしても『ボルベール<帰郷>』を思い出してしまう。結婚パーティのシーンなんか、いかにもアルモドバルっぽい。何でこんな紛らわしい映画を撮ったんだろう…

まあそれはさておき、こうしたアート系映画の監督が撮ったミステリー/サスペンス映画だと、どうしてもジャンル映画としての見せ所が弱い、というか、そもそもそこには興味が無いんだろうな、という映画が多いのだが、本作の結末はなかなか意外性に富んだものだった。序盤にきっちり伏線が張られていた点も好印象。映画の中盤、主人公の心を苦しめ続けてきたある事実が暴露されるのだが(これも『ボルベール<帰郷>』っぽいな…)、まるで手掛かりの無かった誘拐犯の正体がそこから徐々に絞られていく、という構成も巧みである。そういえば『別離』でも、ある映像を利用したトリックが使われていて、意外にファルハディはその手のミステリー映画が好きなのかも、という印象を抱いた。とはいえ、本作はよくある誘拐サスペンスの様に事件が解決してめでたしめでたし、という展開にはもちろんならない。

少女の誘拐事件を発端に、人々がエゴをむき出しにぶつかり合い、それぞれが癒す事のできない傷を負ってしまう。事件が解決しても、壊れた絆は永遠に元には戻らないのだ。結局、人は誰かを利用し犠牲にする事でしか生きていけない、どうしようもない存在である事を思い知る。

 

あわせて観るならこの作品

 

ボルベール<帰郷> [Blu-ray]

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ペドロ・アルモドバルが自身の故郷ラ・マンチャを舞台に三世代にわたる女達の悲劇を描く。とにかく、ペネロペ・クルスがたまらないです…

 

別離 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2012/12/04
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ファルハディの代表作と言えばこちら。とにかく、最初から最後まで登場人物が喧嘩をしている映画だが、にもかかわらず、言葉にはならない感情の揺れを視線のやり取りによって暗示する手際が実に映画的。