事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

M・ナイト・シャマラン『ミスター・ガラス』

 

ミスター・ガラス [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/09/04
  • メディア: Blu-ray
 

エアベンダー』の惨憺たる失敗により、シャマランは、自分には世間が求める様なアメコミ映画を作る資質が無い、という事を痛感したのだろう。『アンブレイカブル』のデヴィッドとイライジャ、『スプリット』のケヴィンが一堂に会する本作では、多くの観客が期待していた王道のアメコミ的展開を回避し、まさにシャマランでしか語りえない異様な物語を語り始める。
数々のヒット作を手がけてきたとはいえ、結局、M・ナイト・シャマランという監督はどこまでいってもマイナーな存在なのだ。と言っても、マニアックだとか無名だとかいう意味でのマイナーではない。カフカ的な意味においてマイナーなのである。彼らは、周りの人々が使っているのと異なる論理で考え、異なる言語で表現する。だから、彼らが生み出す物語は、いつだって奇妙でいびつなものにならざるを得ないだろう。
『ミスター・ガラス』に登場する能力者たちは、私達に勇気を与え鼓舞するヒーローやヴィランではない。自分がなぜ、どこから生まれてきたのか、という彼らの問いかけは、スクリーンを見つめる私達にはね返り、やがてはアイデンティティを揺るがせ、根源的な不安に陥れる。そして、彼らが抱えるマイナー性を、誰もが少しずつ共有している事実に気づかせる。
精神分析というお仕着せの論理によって自己を解体され、自分を取り戻した瞬間に虐殺される彼らの物語は、あまりにも痛々しい。願わくは、奪われた真実に気づき声を上げる者が一人でも増えん事を。人々を勇気づける新たな物語は、そこから誕生する筈だ。

 

あわせて観るならこの作品

 

アンブレイカブル [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/12/22
  • メディア: Blu-ray
 

全てはここから始まった。現在のアメコミ映画の潮流を先取りした様な作品。今観るとラストの哀切さに胸がつまる。

 

スプリット [Blu-ray]

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  • 発売日: 2018/05/09
  • メディア: Blu-ray
 

『ヴィジット』で復活を遂げたシャマランが放つサイコサスペンスの奇作。ジェームズ・マカヴォイのカメレオン演技も凄いが、中盤から終盤への展開は完全に狂っている。以前に感想を書いています。