事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

スティーブン・ケープル・ジュニア『クリード 炎の宿敵』

 

アポロ・クリードがロッキーのセコンドを務めた『ロッキー2』の構図を逆転させ、ロッキーをめぐる物語の終焉と、クリードという新たなボクサーの誕生を同時に物語った前作は、ボクシング映画の新たな傑作だった。監督が代わったとはいえ、続編に期待を寄せていた人も多いだろう。
今作では、『ロッキー4』においてアポロ・クリードの死の原因となったロシア人ボクサー、イワン・ドラゴの息子ヴィクターが登場し、ヘビー級王者となったクリードに挑戦する。ヴィクターとの試合に消極的なロッキーと、復讐心に突き動かされるクリードとの間に確執が生じ、ロッキーはセコンドを降りる事になる。シリーズファンならすぐに分かる通り、この展開は『ロッキー3』のそれと同じである。
冷戦時代の政治情勢を反映した『ロッキー4』では、ソ連社会主義アメリカの自由主義が2人のボクサーによって体現されていた為、ドラゴはほとんどサイボーグの様な存在として描かれていた。今作ではドラゴとその息子ヴィクターの苦悩と葛藤が並行して描かれているので、『ロッキー4』よりもぐっと深みを増した造形になっている。ドルフ・ラングレンの渋味を増した好演も素晴らしい。
しかし、『クリード チャンプを継ぐ男』の続編としてはこれで良いのだろうか、とも思う。本作について語るには、やはり『ロッキー3』や『ロッキー4』という固有名詞が必要なのだし、黒人を主役にしたり冷戦時代の劇画的な描写を修正したのも、結局はロッキーの物語を時代に合わせて延命させているだけなのではないか。もちろん、今作は今作で面白い映画だとは思うのだが、前作は公式の続編でありながら、ボクシング映画における『ロッキー』の磁場から逃れようとしていた点にこそ最大の魅力があった筈だ。劇中でビアンカが言う通り、クリードはロッキーの弟子としてではなく、彼自身の物語を語り始めるべき時なのではないだろうか。ロッキーの弟子がロッキーを超えられなかったという意味で、今作は『ロッキー5』の再演の様に見えてしまう。

 

 あわせて観るならこの作品

 

『ロッキー』シリーズの設定をそのまま引き継ぎながら、単なるスピンオフに終わらず、ボクシング映画の新たな可能性を切り拓いた傑作。

 

言わずと知れたシルベスター・スタローン主演のヒットシリーズ。バカにする人も多いだろうが、とりあえず全部観ておくべき。特に『5』は必見。ボクサーが主人公なのに勝負を決めるのがバックドロップという唯一無二の映画。