事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ロド・サヤゲス『ドント・ブリーズ2』

憎悪と孤独が生み出した怪物に引導を渡す為にこの続編は作られた

その奇抜な設定と緊張感漲る演出が話題を呼び、2週連続全米No.1を獲得するまでのヒットとなった『ドント・ブリーズ』。そのヒットにあやかるべく『ドント・スリープ』や『ドント・スクリーム』など数多くのパチもんが生まれては消えていく内に(もしかすると原題ではなく日本の配給会社が勝手に付けた邦題かも知れないが…まあ、どうでもいいか)、はや5年の歳月が流れた。いよいよ、待望の続編である。監督は前作の共同脚本を担当した、ロド・サヤゲス。前作で監督を務めたフェデ・アルバレスもまた脚本に参加しているので基本的には同じ布陣と言っていいだろう。
さて、私は先ほど「待望の」続編などと書いたが、実は待望など全くしていなかった。どう考えてもシリーズ化に向いたタイトルだとは思えなかったからだ。超人的な聴覚と腕力を備えた盲目の老人の家に強盗が押し入り返り討ちに遭う、というのが前作のプロットだったが、そんなに何度も強盗に遭う人もいないだろうし、まさか同じ事を繰り返す訳にはいかない。かといって、この老人は基本的に出不精なので街に出て人を襲う、といった事もしそうにない。もちろん、前作のラストで死んだと思われた老人が実は生きていた…という伏線は張っていたものの、まあそれはホラー映画のお約束みたいなもので製作陣に本気で続編を作るつもりがあったとは想像していなかったのである。
で、この続編なのだが…あにはからんや序盤から前作と全く同じ展開になるので驚いた。またもや、老人の家に強盗が闖入するのである。違うのはその家に娘が一緒に住んでいる事(ここは前作を観た方ならジジイまたやりやがったな、と思うところだろうが)と、強盗が前作の様なボンクラではなく完全にプロの集団だという事である。この変更によって、本作のストーリーはホラー映画からアクション映画のそれへと舵を切っていく。手に汗握るシーンはふんだんに用意されているが、それはホラー映画の緊張感というより、サスペンス映画のそれに近い。映画の中盤、娘をさらった強盗達のアジトに今度は老人が乗り込む、という風に攻守の反転する展開が見られるが、こうなるともはや『コマンドー』である。
しかし、だからといって本作が蛇足だとか柳の下のドジョウ狙いだとかいう訳では全くない。この老人は非常に同情すべき過去を持つと共に、全く共感できない狂気をはらんだ人物であった。言わば憎悪と孤独が生み出した怪物だったのである。その怪物に引導と救いをもたらす為、物語に真の終幕をもたらす為に『ドント・ブリーズ2』は作られた。ラストシーンの娘と老人の最後の会話は涙なくして観る事ができないだろう…と言いつつ、これで『3』が作られたらさすがに呆れるが、何が起こるか分からないのが映画というものである。

 

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もちろん単体でも楽しめる作品ではあるが、できれば前作から通しでご覧頂きたい。同じキャラクターを扱いながらここまでテイストの異なる映画を作れる、という意味でも面白い。