事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

上田慎一郎他『イソップの思うツボ』

 

イソップの思うツボ[Blu-ray]

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これは…久しぶりに絶句する様な映画に出会った。私は、『カメラを止めるな!』は本当に傑作だと思っているし、そのスタッフが再結集した新作という事で本作にも期待していたのだが…それにしてもこれは酷い。『カメラを止めるな!』は、演出の拙さや安っぽさが観客を騙すトリックに繋がっていた。しかし、本作の拙さや安っぽさはそのまんまである。単にセンスの無い人間が映画を撮ったらこうなる、というお手本の様な作品に仕上がってしまった。

前作の大ヒットを受けて、本作は最初から堂々と「騙し」をうたっている。つまり、観客もある程度の疑いを持って映画に臨む事になる。これは大いに同情すべきところだが、それにしたってこの程度のネタで納得する観客がどれだけいるのだろうか。騙されたとか騙されなかったという問題ではない。それを言うなら、私だってこの映画の展開を予測できなかったのだから、騙された口に入るだろう。『カメラを止めるな!』が素晴らしかったのは、映画後半にトリックが明かされた瞬間、観客がそれまで観ていた物語に全く別の意味が与えられ、その結果、本来なら欠点である筈の拙さや安っぽさをも愛おしく感じてしまう点にあった。引っ繰り返されたのはストーリーだけではなく、観客の感情も含めて、なのだ。しかし、本作のどんでん返しは、単にストーリーのレベルに留まっている。だから、真実が明かされても「ああ、そうですか」としか思えない。感情が揺さぶられないから、脚本の杜撰さや安易さなど、欠点ばかりが目に付き始める。そして、観客の醒めた観察を跳ね返せるほどの映画的リアリティを、本作は持ち得ていないのである。

その他、カット・イン・アクションが不自然でいちいち引っ掛かるとか、銃の扱い(ガンアクションの演出や銃の選定など)があまりにもぞんざいだとか、「犬」にあたる家族のパートが描き込み不足で必要性に欠けるとか(まあ、そもそも「兎と亀」の話に「犬」は余計なのだが…)、言いたい事はたくさんあるのだが、きりがないのでやめておこう。ただ一つ、序盤にで登場する、叶わぬ恋に悩む少女の姿が中盤では全く別の意味を持ってくる、という仕掛けには観るべきものがあった。なぜなら、この仕掛けが成功するか否かは、それを演じる女優の力量に掛かっていたからである。主演女優がその期待に十分に応えられたかは疑問だが、ここではストーリーをこねくり回すだけではない、映画の作り手としての覚悟が感じられた。

 

あわせて観るならこの作品

 

カメラを止めるな!  [Blu-ray]

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これは傑作です。今作とは腹の据わり方が全く違う。まあ、みんな観てますかね…以前に感想を書いています。

 

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今作のオチの脱力感、どこかで覚えがある様な…と思ったら、これだった。デヴィッド・フィンチャーが後にそれなりの映画を撮るようになったからといって、『ゲーム』を無理やり評価しようとする奴は死んじまえ。