事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

バート・レイトン『アメリカン・アニマルズ』

 

アメリカン・アニマルズ [Blu-ray]

アメリカン・アニマルズ [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: Blu-ray
 

本作を観て思い出したのが、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』という映画である。アイススケート選手ナンシー・ケリガン襲撃に関与したとされるトーニャ・ハーディングの半生を当事者たちの証言と再現ドラマで追う作品だったが、証言の食い違いをそのまま劇中に取り込み、私たちが事実(と思い込んでいる)ものの曖昧さを見事にあぶり出していた。本作も当事者のインタビュー映像と再現ドラマという同様の構成である。証言の食い違いをそのまま反映させたシーンがあるのも同じ。ただ、本作の目指すところは『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』とは異なるようだ。

本作の主人公たちが時価12億円相当のビンテージ本強奪を計画したのは、金目当てなどではない。平凡な学生生活に嫌気が差し、退屈な日常に風穴を空けたいと願っていたからである。彼らにとって『現金に体を張れ』や『レザボア・ドッグス』の主人公たちは、かけがえのない瞬間を求めて身を躍らせる先駆者だった。

犯罪という特異点から退屈な日常を突破し、その向こう側へ辿り着く事。それが彼らの目的なのだから、犯罪そのものが成功しようが失敗しようが、実は大した問題ではない。本作では素人の考えた犯罪計画がいかなる顛末を遂げるか、その右往左往する様をコミカルに描いて笑わせてくれるが、映画が描こうとしたのはその先である。無様な失敗を遂げたとはいえ、とにもかくにも彼らは映画の題材となる様な特別な体験をしたのだ。その事実は、彼らが飽き飽きしていた平凡な日常をどの様に変えたのか。あるいは、何ひとつ変わりはしなかったのか。当事者へのインタビューと再現ドラマという構成は、事件を境界線として彼らの変化あるいは不変を捉えようとする試みである。映画の終盤、境界線を挟んだ過去と未来が不意にすれ違う感動的なシーンがある。その時、彼らの心に去来する想いはどの様なものだったのだろうか。

 

あわせて観るならこの作品

 

 個人的には昨年観た映画で5本の指に入る。フィクションとドキュメンタリーの境界について考えさせられた。以前に感想も書きました。

 

 この手のケイパー映画はたくさんあるが、基本的に「どんな計画を立てるか」「実行した際にどんなアクシデントが発生するか」「予想外の事態をどう乗り切るか」という3点が見どころ。キューブリック初期の名作である本作は、緻密に練り上げられた強盗計画が、小さな穴から瓦解していく様をサスペンスフルに描いている。ぶっきらぼうなラストシーンも格好良い。