事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ロブ・ライナー『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』

 

記者たち 衝撃と畏怖の真実 [Blu-ray]

記者たち 衝撃と畏怖の真実 [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: Blu-ray
 

 

イラク戦争をテーマにした映画はこれまでも数多く取られてきたが、『ハート・ロッカー』や『アメリカン・スナイパー』など、戦地に赴いた兵士たちの過酷な戦闘体験を描いた映画が多かった。結局、アメリカにとってイラク戦争とはベトナム戦争に次ぐ新たなトラウマにしかならなかったのだし、開戦前のブッシュによる勇ましい演説が、全く内実を伴わない空虚なものだった事は既に知られているところである。ただ、これは不謹慎な言い方だが、ベトナム戦争が遠い過去の話となった今、ハリウッドはイラク戦争によって新たな戦争映画を作る事ができた訳だ。

本作は「イラク大量破壊兵器保有している」という、アメリカが唱えたイラク戦争の開戦理由の嘘を暴き、大手メディアが大政翼賛的な報道に傾く中、唯一開戦に反対し続けたナイト・リッダー社の記者たちの姿を描いた作品である。だから、本作は戦争映画ではなく『大統領の陰謀』の様な、ジャーナリズムと権力の対決を描いた映画として撮られている。『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』や『スポットライト 世紀のスクープ』など、近年同じテーマを扱った作品が数多く撮られているが、これはトランプ政権によるマスメディア批判や露骨な圧力に対するカウンターでもあるのだろう。先ほどの言い方になぞらえるなら、ニクソンが過去の人となった今、ハリウッドはトランプ大統領の出現によって、新たなジャーナリズム映画を作る事ができたのだ。

もちろん、トランプ大統領ニクソン~ブッシュという系譜の中で登場した事は間違いない。その様な意味で、本作は『大統領の陰謀』と『華氏119』の間を埋めるピースとして存在する。残念ながら、歴史はいつも同じ過ちを繰り返す。そして、その不毛な反復を食い止める義務は、いつでも私たちに課せられているのだ。

 

あわせて観るならこの作品

 

スピルバーグの近年最高傑作だと思います。以前に感想も書きました。

 

大統領の陰謀 [Blu-ray]

大統領の陰謀 [Blu-ray]

  • 発売日: 2011/04/21
  • メディア: Blu-ray
 

この手の権力VSジャーナリズム映画のひとつの定型を作った名作。この映画では真実と正義を追及していたワシントン・ポストが、イラク戦争時には体制迎合的なメディアに堕してしまった事を忘れてはならない。社会正義とは、私たちが想像するほど一枚岩ではない、という事だ。