事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

デヴィッド・ゴードン・グリーン『ハロウィン』

 

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オリジナル版『ハロウィン』は、ジョン・カーペンターの代表作でもあり、スラッシャーホラーの古典と賞される名作である。しかし、私は学生の頃にレンタルビデオで観て「何か演出がもっさりしてるな」という感想を抱いた。当時既に、例えばサム・ライミなどによる、バンバン怪物が出てきてバンバン人が死ぬ、ハイスピードのホラー映画が出ていたから、それと比較していたのかもしれない。しかし、今回のリメイク版を観て、あのもっさり感はマイケルの歩く速度に合わせて映画が作られているからだ、という事に気付いた。

殺人鬼から逃げ惑うヒロイン。彼女は夜の街を必死に走り続ける。その後をゆっくりと追う巨漢の殺人鬼。手に持った血まみれのチェーンソーが唸りを上げる。やがて、ヒロインはたまたま通り掛かった車に乗せてもらい、無事に家へと帰り着く。胸をなで下ろしたヒロインが、玄関の扉に手を掛けた時、庭の暗がりから殺人鬼が姿を現す―ここで疑問が湧く。はて、殺人鬼はどうやってヒロインを追いかけてきたのだろうか?

通常、ホラー映画の殺人鬼が被害者のもとへ辿り着くまでの「移動」の過程が描かれる事はまれである。彼らはいつだって、突然姿を現す。被害者たちが息をひそめる部屋のクローゼットや窓から、まるで初めからそこにいたかの様に出現する。こうした「移動」の描写の省略こそが、彼らに神出鬼没の不気味さや全能感を付与するのだ。

冒頭の主観ショットによる殺戮シーン(当時としては斬新なアイデアである)からも分かる通り、オリジナル版『ハロウィン』は徹頭徹尾、殺人鬼マイケルを中心に据えた映画だった。通常のホラー映画が被害者側を画面の中心に置くのと逆である。もちろん、殺人鬼が突然に登場して観客を驚かせる演出は存在する。しかし、観終わった人々の印象に残るのは、マイケルが被害者を追う、その緩慢な足取りなのだ。彼には、他のホラー映画の殺人鬼の様に、時間も空間も超越して、一足飛びに被害者に接近する特性は与えられていない。ただ、ゆったりと足を運び、少しずつ被害者に近づいて行くのである。

リメイク版『ハロウィン』を観た時に、最も興奮させられるのは、マイケルがハロウィンパーティー真っ盛りの町に現れ、次々と人々を屠ってゆくシーンである。ワンシーンワンカットの移動撮影で描かれるこの場面において、ある家に押し入ったマイケルの姿を背後から追い続けるカメラが、キッチンの入口の前で静止する。キッチンの中で、マイケルが主婦を殺す不気味な物音だけが聞こえてくる。やがて、カメラはまたゆっくりと動き始め、キッチンの中へ侵入し、裏口から出ていくマイケルの姿と、惨殺された主婦の死体を捉える。また別の家の様子を窓から窺うマイケル。中では、女が困惑した様子で電話をしている。どうやら、町に殺人鬼が現れたという連絡を受けたらしい。カメラはまた動きを止め、マイケルが家に侵入し女の脳天に刃物を突き刺す姿を窓越しに映しだす。

殺人鬼が被害者にゆっくりと近づく。被害者の背後で足を止め、刃物を振りかざす。繰り返される移動と静止。カメラはマイケルの動きに沿いながら、その甘美なリズムを映画にもたらしている。

 

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