事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

アントワーン・フークア『イコライザー2』

 

前作では、ホームセンターで働いている気のいいオッサンが実は元CIAの特殊工作員だったという点が終盤まで伏せられており、「何でこのオッサンこんなに強いんだ!」という敵役の驚きが観客のそれとリンクしていた。主人公マッコールの得体の知れなさが、私物の置き場所に強迫症的にこだわる描写(これはデンゼル・ワシントンのアイデアらしい)とも相まって、ニューロティック・スリラー的な雰囲気すら醸し出していたのが面白かった訳だ。
もちろん、続編ではこの手はもう使えない。その為、私はこのシリーズはマッコールが職業を転々とし、そこで出会った市井の人々の苦しみを代わりに晴らす、必殺仕事人みたいな展開にシフトしていくと思っていた。だから、マッコールがホームセンター店員からタクシードライバーに転職した、という本作の設定にはなかなか上手いな、と感心したのである。タクシードライバーであれば、乗客の抱える苦しみや悲哀に触れる機会も多く、そこから幾らでも物語を生みだす事ができるだろう。実際、本作の前半で描かれるのはそうしたエピソードである。
しかし、中盤からこの映画はマッコール自身の過去と内面を掘り下げる展開へと舵を切っていく。そこで描かれるのは、彼を過剰な行動へと駆り立てていく計り知れない喪失感である。マッコールは、単に義憤に駆られて悪人たちに立ち向かう正義の味方ではない。彼もまた「救い」を求めてもがき苦しむ人々の1人なのだ。
先述した必殺仕事人的な展開であれば幾らでも続編が作れると思うのだが、アントワーン・フークアデンゼル・ワシントンもそんな気はさらさら無いのだろう。通常のアクション・ヒーロー映画であれば、3作目や4作目で語られるべき物語を先回りして描いた印象のあるこのシリーズに、更なる続編は望めるだろうか。