事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

デヴィッド・ロバート・ミッチェル『アンダー・ザ・シルバー・レイク』

 

アンダー・ザ・シルバーレイク [Blu-ray]
 

映画界では何年かに1度、いかにもデヴィッド・リンチっぽい映画が作られ、その度に映画ファン達は「これは傑作に違いない!」と心躍らせながら映画館に駆け付け、そしてガッカリした顔で劇場を去る、という悲劇が繰り返されてきた。この作品も、予告編を最初に観た時から、「これはリンチっぽい!絶対に傑作のはずだ!」と期待していた作品である。で、本編を観た感想はというと…推して知るべし。
しかし、そもそも映画ファンが思い描く「傑作」など本当に存在するのか?そもそも、デヴィッド・リンチ本人の映画だって、観終わった後はなぜかがっかりするのが常なのである。つまり、その「傑作」とは私たちの中でいつしか育まれた、極めて私的な願望の投影にすぎず、リンチの映画が映画ファンの期待を煽るのは、彼もまたパーソナルな願望から物語を生みだしているからであろう。そして、作り手と消費者の願望はいつだってすれ違い、また新たな失望が生み出されていく。
アンダー・ザ・シルバーレイク』に観るべきところがあるとすれば、監督と脚本を務めたヴィッド・ロバート・ミッチェルがこの悲劇的なすれ違いを覚悟した上で物語を始めている点にあるだろう。劇中、最も深い印象を残す「ソングライター」との対面シーンで、観客は主人公サムと同様の悲哀を感じたはずである。ポップカルチャーとは消費者の願望を吸収し、彼らが望むままに姿を変える。しかし、それは結局、他人の願望が反映された偽物に過ぎないのだ。