事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

タイ・ウエスト『X エックス』

悪魔のいけにえ』+『ドントブリーズ』+『ブギーナイツ』=X

相変わらず絶好調が続くA24の新作は、タイ・ウエスト監督による回春ホラー(そんなジャンルあるのか?)。当初から三部作になる事が発表されており、公開当初は二作目の予告編がエンド・クレジット後に流れたらしい(私は公開終了ぎりぎりに観に行ったので未見)。タイ・ウエストという監督について私は何も知らないが、イーライ・ロスに才能を見出され(『キャビン・フィーバー』の続編の監督も務めている)、インディペンデント系のホラー映画作家として着実にキャリアを積み重ねてきた様だ。
A24配給のホラー映画というと、アリ・アスター『ミッドサマー』やロバート・エガースの『ライトハウス』の様な、アート映画的なスタンスで撮られた作品の印象が強い。なので、本作にもその様な期待を抱いていた人も多いだろう。私もその口だった。ところが、やはりイーライ・ロスの門下生という事なのか、本作は徹頭徹尾、下世話で猥雑なB級ホラーとして撮られており、アート映画っぽさなど微塵もない。だから、『ミッドサマー』の様な映画を期待していると、肩すかしを食うだろうし、逆にA24のホラー映画はスノッブに過ぎて肌に合わない、という人は大喜びするかもしれない。テキサスの田舎町を訪れた男女が殺人鬼に酷い目に遭わされる、という設定はみんな大好き『悪魔のいけにえ』へのオマージュだろう。そこに『ドント・ブリーズ』や『スペル』の様な老人ホラーの要素を折衷した訳だ。更に、犠牲者となる主人公たちをポルノ映画の撮影スタッフとする事で、老いと性というテーマが浮き彫りになる仕掛けである。エロティックな濡れ場といいビビッドな色使いといい、やたら念入りなゴア描写も含めてイタリアン・ホラーの影響を感じたのは私だけだろうか。
という訳で、いかにもマニアの作った好事家向けのホラー映画といった趣の本作だが、既に予告されている続編ではどの様な展開が待ち受けているのだろうか。冒頭、そしてラストでTVから流れる宗教演説、そして1979年という時代設定など、何となくカルト宗教が話に絡んできそうな気配がある。というのも、タイ・ウエストは1978年に起きた人民寺院による集団自殺事件に材を採った『サクラメント 死の楽園』という映画を手掛けているからだ。今後予定されている『Pearl』『MaXXXine』と合わせた三部作でどの様な地獄が描かれるのか、楽しみである。

 

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