事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ペイトン・リード『アントマン &ワスプ』

 

私は前作『アントマン』を観ていない。その為、ピム博士とその娘が主人公に対し「おまえがドイツでしでかした事は絶対に許さん!」と怒っている理由がよく分からなかった。おそらく借金の踏み倒しとか車の当て逃げとか、余程ひどい事をしたのだろう。また、この作品はMCUシリーズの一角を占めるのだが、私はMCUシリーズもちゃんと観ていないのでどう話が繋がっているのかも分からなかった。劇中でキャプテンアメリカがどうとか言っていたので、おそらく知り合いか何かなのだろう。

という訳で、前作『アントマン』の続編であり、MCUシリーズでもある、という複数の要素を持つ本作は、それだけ情報量の多い映画という事になる。そして、身体を自由に拡大縮小するスーツを着込み、物体を自由に拡大縮小する武器を持つヒーローが2人登場し、そこに仲間のアリも加わって(なぜ、アリが主人公の命令を聞くのか前作を観ていないので理由が分からない。おそらく若い頃に世話になったとか、やむにやまれぬ事情があるのだろう)、物体をすり抜ける謎の美女「ゴースト」や闇の商人相手に激しいアクションを繰り広げるのだが、本作はその合間に量子世界で行方不明になった妻を探すピム博士のパートも挟み込まれる。主人公は既に離婚しており、元妻に引き取られた娘と会う事を心待ちにしている、という設定から、本作は家族映画としての要素も併せ持つ(ここでの「家族」とは実際の家族関係はもとより、主人公やピム博士とその娘、勤め先の警備会社の社長らが形成する疑似家族的な意味合いも含む。また敵役の「ゴースト」についてもある人物と同様の関係を結んでいることは明らかだろう。こういった疑似的な家族関係は『アベンジャーズ』に代表されるMCUシリーズと相似をなす)。
以上の様に、本作はますます拡大膨張を続けるMCUシリーズを体現する様な1本となっており、このゲップが出そうなぐらい盛りだくさんの要素を手際良く整理し、(一応)前作もMCUシリーズも観ていない人間でも楽しめる様に仕上げている。確かに、見事な手際ではある。しかし、ここに現在のハリウッド映画が抱える病理の様なものを感じるのは私だけだろうか。