事件前夜

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S・S・ラージャマウリ『マガディーラ 勇者転生』

 

マガディーラ 勇者転生 [Blu-ray]

マガディーラ 勇者転生 [Blu-ray]

  • 発売日: 2018/12/05
  • メディア: Blu-ray
 

インド映画としては世界で空前の大ヒットとなった、S・S・ラージャマウリによる『バーフバリ』2部作は、フルマラソンを全力疾走するかのごとき異様な熱量と、細部にわたる映画的な豊かさが融合した圧倒的な傑作だった。未見の方はぜひご覧頂きたい。

本作は、その『バーフバリ』の原点的な作品らしい。なるほど、ホメロス叙事詩シェイクスピア悲劇をモチーフに、愛と権力をめぐる激しい闘争を描く、という点では共通している。その闘いがひとつの世代では終わらず、複数世代にまたがるのも同様である。ただ、『バーフバリ』が親と子、という2世代間にわたる物語であったのに対し、本作では400年という時間を隔てた闘いがテーマである。

従って、本作では『バーフバリ』とは異なり、400年前の壮大な神話的世界と現代インドという、全く異なった時代、そして舞台が並行して描かれる。正直、かなり強引な話だし、400年前と現代では舞台美術も全く異なるので違和感は拭えないのだが、S・S・ラージャマウリは輪廻転生と業(カルマ)というヒンドゥー教的死生観の下、問答無用に物語を推進させていく。

過去と現在の隔たりは、何も時代設定や舞台美術だけに限らない。400年前の過去を描いたパートではそれこそ『バーフバリ』の如き権謀術数に満ちた歴史ドラマが重厚なタッチで描かれるのに対し、現代パートは80年代香港映画へのオマージュに満ちた能天気な展開がひたすら続く。別の映画化と思うぐらい、語りのトーンが全く異なるのだ。しかも、輪廻転生というモチーフが採用されているので、主要な登場人物は同じ役者が演じている。この落差に戸惑いを覚える観客も多いだろう。

この過去パートと現代パートのトーンの違いを、1本の映画としてどの様にまとめるか。S・S・ラージャマウリは基本的に「役者がすごく真面目な顔をする」と「役者がすごくふざけた顔をする」という演出で解決している。色々と言いたいことはあるのだが、このぬけぬけとした強引さは嫌いではない。