事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

マーク・フォスター『プーと大人になった僕』

 

中盤から終幕まで涙が止まらなかった、と言うと一緒に見に行ったリアリストの妻は全く理解できない様な顔をしていたが、確かにいくらファミリー向けとはいえ穴の多い映画ではある。登場人物は類型的で描き込み不足だし、ストーリーも楽天的で予定調和に過ぎる。「大人になったクリストファー・ロビンとプーさんが再会するお話」と聞いて、みんなが想像するものを1歩も超えていないのだ。あと、カットのつなぎ方があまりに不器用で気になって仕方がなかった(『慰めの報酬』の監督だと知って納得)。しかし、それでも泣いてしまう。キャラクターたちの一挙手一投足が心を揺さぶる。『くまのプーさん』とは寂しいロビン少年のために生み出された「物語」だった。大人になり、仕事に追われる毎日の中で、己を見失った男の前に再び「物語」が立ち現れる。クリストファー・ロビンは、かつて親しんだ「虚構」の力を借りて「現実」というヒイタチを倒すのである。これが泣かずにいられようか。『ドラえもん』でも『ミッキーマウス』でも何でもいい、そうした「物語」に心を慰められた経験があり、今でもそれを忘れられないでいる人は必見の作品である。付け加えるなら、『くまのプーさん』のアニメに親しんでこられた方には、吹替え版をお勧めする。私も字幕版だったら、こんなに感動しなかったかもしれない。