事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

セオドア・メルフィ『ドリーム』

 

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アメリカ宇宙開発の礎となったマーキュリー計画の裏で、差別や偏見と戦いながら、計画を成功に導いたNASAの黒人女性スタッフの奮闘を描く。その差別と偏見は、3つのレイヤーに分かれる。まず、人種差別。物語の舞台であるNASAのラングレー研究所が建つヴァージニア州では、未だに差別的な州法がまかり通っており、トイレ、図書館や学校といった公共サービスにも白人用と黒人用に分けられていた。次に、性差別。公民権運動が盛んな60年代においては、未だに男性優位的な原理が主流を占め、NASAの様な最先端技術を研究する機関ですら、男性と女性では待遇に圧倒的な差が設けられている。3つ目はNASA内における計算係という職種への差別意識である。宇宙開発に必須の職種でありながら、計算係はその計画の本質には決して立ち入る事ができず、単に上から降りてきた書類の山をひたすらこなしていくだけの下働きに過ぎないのである。それは、必要が無くなればいつでも切り捨てられる臨時雇いに過ぎず、本作の主人公たちも常にいつ仕事が無くなるか分からない、という不安に怯えている。この様な差別を主人公たちは知力と策略と連帯によって乗り越えていく。この映画で描かれた状況が現在では完全に解消されている、と言えない事は誰しもお分かりだろう。だからこそ、私たちは本作のケヴィン・コスナーの様に「天使のハンマー」で人々が知らぬ間に作り上げた障壁を打ち砕かなければならない。それは結局、組織を機能不全に陥らせる様な非効率を生み出しているからだ。