事件前夜

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ポール・シュレーダー『魂のゆくえ』

 

魂のゆくえ ブルーレイ+DVD [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/10/23
  • メディア: Blu-ray
 

冒頭、映画の舞台となる教会にカメラがゆっくりと近づいていく。映画の主人公は、ニューヨークの小さな教会に勤める牧師トラー。彼はある環境活動家の妻メアリーから、最近夫の様子がおかしいとの相談を受け面談を行う。活動家マイケルは人間が神からの恩寵である大地を汚し続けているのは、神の意志に反するのではないか、とトラーを難詰する。やがて、マイケルはショットガンで頭を撃ち抜き自殺する。葬儀を請け負ったトラーは、身重のメアリーの代わりにマイケルの遺品を整理するが、徐々に彼の信仰心に陰りが差し始める…

マーティン・スコセッシ出世作タクシードライバー』の脚本家として有名なポール・シュレイダーだが、本作は暴力と信仰という、いかにもスコセッシらしいテーマを扱いながら、ゆったりとした移動撮影と堅実な固定ショットで構成された前半部分と、変則的な演出により牧師が狂気に取りつかれていく様をサスペンスフルに追う後半部分にリズムの変化を持たせ、豊かな映画空間を作り上げている。前半と後半の境目となるのが、元SPKのメンバーであるBrian Williamsによるコズミック・ホラー・アンビンエントユニット、LUSTMORDのサントラである。BGMも無く自然音だけで構成された映画の中で、突然、地下牢に閉じ込められた男の唸り声が宇宙に反響している様な不気味なサウンドが鳴り始める。ここから、映画はより暗鬱なトーンを強くし、牧師トラーもそれまで見せなかった顔を見せ始める。観客を驚かせる「マジカル・ミステリー・ツアー」のシーンのエロティックさ、奇妙な幸福感と開放感をもたらすラストシーンなど、観る度に新しい発見がある傑作である。

 

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言わずと知れた傑作。マーティン・スコセッシはもちろんの事、ポール・シュレーダーもこの作品の脚本で名を挙げた。主人公が心理的に追い詰められ、極端な行動へと駆り立てられる、というプロットは今作と共通する部分がある。