事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

デビッド・リーチ『アトミック・ブロンド』

 

何とも時代錯誤な作品である。本作のハイライトである、ベルリンのアパルトマンでの戦闘場面。目まぐるしく人が入れ替わり、血飛沫と銃弾が飛び交う10分程度のこのシークエンスを、作り手は手持ちカメラによる長回し撮影で撮りきっている。この撮影を可能とする為に、役者の配置や殺陣について綿密な設計を行ったと想像するが、結局のところ、それが成功するかどうかはシャーリーズ・セロンを初めとする役者陣の身体能力に掛っていた筈だ。そこに賭けた製作陣と、その期待に見事に応えた俳優陣の、これは見事なコラボレーションと言うべきだろう。VFX技術が当たり前となり、アクション映画から真の肉体性が失われて久しい。『ストーカー』や『シェルブールの雨傘』を引用し、スパイ映画としても意外なほど骨太なストーリーを展開する本作は、今だからこそ観る価値のある、反時代的な傑作である。