事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

クリス・バック他『アナと雪の女王2』

 

前作について、ジェンダーをめぐる現在の問題意識に則り、古典的なプリンセス・ストーリーをアップデートさせた、という様な評価(と、それに対する反発)をよく耳にした。なるほど、王子様のキスで目覚める、という王道の展開を最後に回避する『アナと雪の女王』は、現在の、あるいはこれからの女性の生き方を指し示した作品である、という捉え方ができるだろう。
しかしまあ、そういう評価がこの映画の全てじゃないのでね。ディズニーの製作陣が今どき王子様のキスで目覚める、って展開はちょっとなあ、と考えた事は間違いないだろうが、だからといって『アナと雪の女王』を社会学的側面だけで理解するのはあまりにも不自由な態度ではある。そもそも、その様な観点だけで見るなら、じゃあ、全ての束縛を解き放ち、氷の城で一人で暮らす事を決意したエルザが、ラストで街に戻るのは思想的後退じゃないか、とか、そもそもエルザとアナが選び取る家族の愛だって、人々を新たな抑圧へと導くモラルに転換してしまうんじゃないか、とか色々と言いたい事が出てくる訳だ。
当たり前の話だが、『アナと雪の女王』が多くの人々を魅了したのは、圧倒的な映像美と見事な楽曲こそが一番の要因だった、と思う。当然ながら、今回の続編でもその魅力は踏襲、いや前作以上のものとなって、私たちを美しいファンタジーの世界へ誘ってくれる。前作では全く描かれる事のなかった、エルザが不思議な能力を持った理由が本作で明かされる事になるが、より自己探求性を増したストーリーは、あくまで貴種流離譚としての構造を保持していた前作に比べ、ドラマとしての推進力に欠けている様に思う。しかし、氷や雪だけでなく、風や火、水といった自然的要素を再現したその映像は、実写と見紛うばかりの質感を伴って観客に迫ってくる(まあ、その辺の表現がやりたくて、4つの精霊という飲み込みづらい設定を取り入れたのだろうが…)。登場人物たちの内的独白を歌に乗せた楽曲はよりバラエティ豊かに用意され、音楽とリンクした映像演出はミュージック・ビデオとしても超一流の出来栄えだ。楽曲に説得力があるから、プロットがいささか説明不足でも、観客はストーリーに身を委ねる事ができる。今回、私は2D吹替版で鑑賞したが、これが4DX版だったら何十倍もの興奮を味わう事ができただろう。
もちろん、民族問題やエコロジーなど、本作は相変わらず多様なテーマへと議論を誘う作りになってはいる。私が先に挙げた前作についての疑問にもきっちりと応え、家族として、一人の人間として生きるとはどういう事なのか、という点について掘り下げられているのも流石としか言いようがない。とにもかくにもストーリー、ビジュアル、サウンド、どの側面からも、その隙の無い作り込みに、ディズニーの底力をいやというほど思い知らされた。

 

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言わずと知れた大ヒット作。松たか子の圧倒的な表現力を堪能できる吹替版の方が私は好きです。続編で少し大人っぽくなったエルザが、高級クラブのチーママみたいに見えたのは私だけだろうか。