事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ『メッセージ』

 

メッセージ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
 

『複製された男』で見せたシュールな映像美と、『ボーダーライン』で発揮した抜群のストーリーテリング、この監督の職人監督的な良さが十二分に発揮されたファーストコンタクトSFの快作である。女言語学者が宇宙人と出会い、言葉を理解し意思を通じ合っていく様を追うメインプロットの合間に、夫と離婚し愛娘とも死別した言語学者の個人的なエピソードが「フラッシュバック的」に挿入される構成。とくれば、この2つのストーリーラインが最後には融合し、ひとつのテーマが浮かび上がる、といった流れを誰もが想像するだろうし、実際その様な展開になっていくのだが、本作にはミステリー小説で言うところの大がかりな「叙述トリック」が仕掛けられており、驚くべき形で2つのストーリーが結びあわされる。それは、今まで見てきた世界がぐるりと反転する様な(あまり詳しく書くとネタバレになってしまうが「ルビンの壺」が頭に浮かぶ)なかなか得難い感覚である。初見で驚き、再見して伏線の妙を味わうタイプの映画だろうか。上手くコンパクトにまとまっていて、破調の美学を追求するこの監督の作品としては人を選ばない方だと思う。