事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ『ボーダーライン』

 

トランプ候補の選挙演説を見るにつけ、メキシコの麻薬カルテルがいかにアメリカで重要なイシューとなっているか痛感させられるのだが、しかし国境に物理的な壁を築いたところで、何も問題は解決しないというのがこの映画の立場だろう。アメリカとメキシコは麻薬取引を媒介に既にずぶずぶの関係になっていて、高い壁などものともしない物理的、人為的なトンネルが張り巡らされているのである。そこでは敵味方の区別など存在せず、ベニチオ・デル・トロの様に個人的な憎しみや怒りだけが自走し、事態を発展させていく。杓子定規な「正義」の概念を振りかざすだけでは、エミリー・ブラント演ずる捜査官の様に今目の前で何が起こっているのかすら理解できず、みじめに右往左往するしかない。