事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

アリ・アスター『ヘレディタリー/継承』

 

ヘレディタリー 継承 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/04/19
  • メディア: Blu-ray
 

A24プロダクションの作品としては、『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』も非常に良い出来だったが、またもやとんでもない傑作が誕生した。黒沢清清水崇のJホラーが、ハリウッドの若手監督にどれほどのインパクトを与えたか、本作を観てもその影響力の強さを感じるが、何よりも素晴らしいのは主演トニ・コレットの演技だろう。こうした作品の場合、次々と起こる怪現象が実際に起きている事なのか、それとも精神を病んだ女の妄想なのか、という点をあいまいに描いた方が面白い。そのあたりのバランス感覚が非常に巧みで、トニ・コレット自身はホラー映画は怖くて観れないらしいが、少なくとも作り手としてはその肝がよくわかっている様だ。私が本作を高く評価するのは、そのストーリーのいい加減さである。なるほど、最後にそれなりのオチは付くのだが、観終わった後にじゃあれは何なんだ、とひとつでも疑問を抱くと次から次へと矛盾点が吹き出して、本作が適当にでっち上げた与太話にもっともらしいオチをくっつけただけである事がわかる。最初から最後まで考え抜かれた『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』がいささか息苦しさを感じさせるのに比べ、本作のデタラメさは何とも風通しが良い。ダリオ・アルジェントの傑作『インフェルノ』に比肩する、というのは言い過ぎか。とにかく、肝さえ掴んでいればこんなにいい加減でも映画は作れるのだし、傑作になり得るのだ。