事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

リチャード・リンクレイター『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』

 

リチャード・リンクレイターは映画を通して「人生にとって時間とは何か?」という問い掛けを執拗に繰り返してきた。それはやがて、映画の上映時間と作中で流れる時間をめぐる様々な実験に繋がっていく。作中人物の年齢を1作毎に引き上げる事で恋愛劇の様々な変容を描いた『ビフォア』3部作や、ヒッチコック的な密室劇を異常に細かいカット割で切り刻み、映画におけるサスペンス=擬似リアルタイム性を巧妙に回避した『テープ』などを経て、登場人物を演じる役者の現実の成長をそのままフィクションに取り込んでしまった途方もない実験作『6才のボクが、大人になるまで』に辿り着いたリンクレイターの新作は、一見すると余りにも馬鹿馬鹿しく下品な青春グラフィティに仕上がっており、戸惑う人もいるかも知れない。しかし、大学生活というのは全ての強制から解放され、何もかも自分の意思で決定する事ができるのに、国や親からの保護で守られているが故にほとんど責任を問われる事のない、人生の中で最も異質な時間なのである。冒頭で述べた様に、人はそこで停止した時間の中にいる様な全能感と、一瞬間毎に何かを失ってしまう事への恐怖を覚えるだろう。本作に登場する学生達の馬鹿話になぜか引き込まれてしまうのは、誰しも経験した事のあるこうした矛盾する感情を、彼らも共有しているからである。