事件前夜

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テイト・テイラー『ガール・オン・ザ・トレイン』

 

ガール・オン・ザ・トレイン [Blu-ray]

ガール・オン・ザ・トレイン [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/11/22
  • メディア: Blu-ray
 

車窓から、他人の生活を覗き見る女。立ち並ぶ家々の窓を捉えたショットが連なるこの冒頭部分でヒッチコックの名作『裏窓』を思い出す人も多いだろう。『裏窓』では、一方的に「見る」側の立場にいたJ・スチュアートが殺人犯に「見られる」立場になった時からサスペンスが始まるのだが、目撃者と探偵の役割を兼ねた『裏窓』の主人公に対し、本作の主人公レイチェルはもう少し複雑な立場に立っている。同じくヒッチコック監督『白い恐怖』の様な記憶喪失サスペンスの要素が盛り込まれた本作では、アル中のレイチェルが「見た」と称する出来事が果たして真実なのかどうかすら疑わしいからだ。そもそも酔うと必ず記憶を失ってしまう彼女には、目撃者や探偵の役どころか、犯人役の方がずっと相応しいだろう。警察に疑われたレイチェルは記憶の空白を取り戻そうと奔走するが、彼女が徐々に記憶を取り戻すにつれ、その役割が目撃者、証言者、被害者、容疑者、探偵、と移り変わっていく、まるでフレンチ・ミステリーの様な展開が本作の見所である。もちろん、この映画の主人公はレイチェルだけではない。並行して走っていた3本の線路が交錯するクライマックスにおいて、レイチェルは「共犯」という最後の役割を果たす事になる。