事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ニール・ジョーダン『グレタ GRETA』

サイコ・ホラー、しかもストーカーものなんて、もはや珍しくも何ともないし、サイコ役を意外な俳優が演じる、というのもよくある話だ。『ストーカー』のロビン・ウィリアムスとか…それでも、「イザベル・ユペールがサイコ犯を演じますよ!」というのが本作最大の売り文句で、実際の内容もその一点に特化した作りになっている。
プロットだけを取り出せば、これ以上ないぐらいありきたりの話だから新鮮味は薄い。しかし、イザベル・ユペールがもうノリノリでサイコ役を演じていて、その暴れっぷりが映画の構造を破壊するぐらい強力なのだ。「歪んだ母性」が犯人のモチーフになっているのだから、もうちょっと子供に対する情念とか執着みたいな、ウェットな面も描かれるのかと思ったら、そんなものは一切ない。とにかくあっけらかんとして楽しそうである。だから、犯人の異常性が増すにつれ、行動が徐々にエスカレートしていく、といったじわじわくる怖さは無い。ストーリーとしてはそういった展開が用意されているが、イザベル・ユペールの最初から振り切った演技といささか齟齬を来している様に思った。まあ、この辺は痛しかゆしといったところだろうか、イザベル・ユペール主演という点を除外して、単独の映画として勝負するには脚本が弱すぎるし…逆に、クロエ・グレース・モレッツの演技はホラー映画の定型を意識し過ぎている様に思う。
個人的にポイントが高かったのは、終盤で私立探偵が登場するところだ。昔の映画には、この手の私立探偵がよく出てきたもので、だいたい事件の真相に気づかないか、気づいたとしてもすぐ犯人に殺されるかして、結局何の役にも立たないのである。

 

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所謂「いい人」の役ばかり演じてきたロビン・ウィリアムスが犯人役を演じた事で話題になったサイコ・サスペンス。その為か、得体の知れない狂気より道を踏み外してしまった人間の哀しみを描く事に重点が置かれ、サイコ・サスペンスとしてはヌルい出来。