事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ワヌリ・カヒウ『ラフィキ:ふたりの夢』

カンヌ国際映画祭への出品を果たすも、同性愛を禁じるケニアでは上映禁止となった(その後、期間限定で公開された)『ラフィキ:ふたりの夢』は、アクチュアルな主題もさる事ながら、その軽やかな佇まいで私たちを魅了する。ファッション、音楽、ダンスといったアフリカのポップカルチャーによって彩られた2人の少女ケナとジキの物語はどこまでもポップなのだ。何となく、スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』を思い出す人もいるかも知れない。
ドゥ・ザ・ライト・シング』の終盤で、それまでのユーモラスな空気を食い破り、生々しい暴力が突如として噴出するのと同じく、本作でも痛ましい暴力が2人の少女を襲う事になる。ケナとジキが抱いた夢は現実の残酷さによって跡形もなく潰えてしまうのだ。人々は、同性愛を悪魔に取り憑かれたが故の仕業と断じ、神の意志に反すると彼女たちを非難する。実際に、悪魔祓いの儀式まで始めてしまう彼らの無知を、しかし私たちは笑う事ができるだろうか。ケニアの人々が口にする「神」は、「常識」や「普通」と言葉を変え、そこからはみ出た者たちをいつも排除しようとする。それは、『ドゥ・ザ・ライト・シング』の描いた世界でも、私たちが住む遠く離れた国でも同じだろう。
共同住宅に張り渡されたロープに干される大量の洗濯物。そのショットが繰り返し挿入される事から分かる通り、本作は衣服の映画でもある。ケナとジキは、それぞれの父親の色ーそれは街中に貼られた選挙ポスターによって示されている―緑と紫に染め上げられる事を拒否するかの様に、多種多彩な色と柄で彩られた服を次々と取り替えていく。といっても、物語の進行や登場人物の心理に合わせて、服飾が変化していく、といった映画的演出が施されている訳ではない。衣装の変化は物語とは無関係に、彼女たちの意思に従って自由気ままに行われるのだ。特定のイメージに染まる事を忌避するその無秩序な色と柄の氾濫に、少女たちのプロテストを感じ取るべきなのだろう。

 

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レズビアンの少女たちの恋愛を、センシティブな描写で描いたパルムドール受賞作。生き生きとした会話が魅力の作品だが、何と監督は出演者に1度しか台本を読まさなかった為、そのほとんどがアドリブだったらしい。こちらは「自由」を意味する青色が映画の基調色になっているが、登場人物の心理の移ろいに合わせるかたちで、その青色は様々に意味を変えていく。