事件前夜

主に映画の感想を書いていきます。

ROADKILL SUPERSTARS『サマー・オブ・84』

 

サマー・オブ・84 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: Blu-ray
 

80年代オマージュって、君らは『スタンド・バイ・ミー』と『グーニーズ』しか観た事ないのか?ホラー映画の知識も『ポルターガイスト』どまりなの?いや、もしかすると『地獄のマッドコップ』ぐらいは観てるのかも知れないが…

まあ、そういう訳でROADKILL SUPERSTARSの新作『サマー・オブ・84』にあまりマニアックな元ネタを探しても無駄である。本作はもっと大ざっぱに、80年代の映画が何となく漂わせていた雰囲気を再現する事に焦点が当てられているからだ。そうした観点から観てみると、ジョン・カーペンターを思わせるペラペラのシンセサウンドやズームアップの多用など、いかにもそれらしい。個人的にはヒロイン役のティエラ・スコビーが気に入った。絶妙なあか抜けなさと健康的なお色気がいかにも80年代映画のヒロインっぽいのである。

ただ、純粋にジュブナイル・ホラーとして観た場合に、本作はあまりにも定型をなぞり過ぎている為、どうしても先が読めてしまう。読めてしまう、というのはストーリーのレベルではなく、演出面のレベルにおいてだ。例えば、ホラー映画のお約束として、フェイクとしてのサスペンス描写、というのがある。殺人鬼に追いかけられた主人公が物影に隠れていると、コツコツと足音が聞こえてくる。息を吞む主人公。不気味なBGMが不安を煽るM。やがて、足音が止まりその主が姿を現す…と、それは殺人鬼ではなく街を散歩していた近所のおっさんだった、という様な肩すかし。色んな映画でよく観るでしょう。本作はこのパターンが非常に多い。しかも、それが「話の展開的にこれはフェイクだろうな」というシーン(パトカーが追いかけてくる場面とか)で入るものだから、観ている方も興ざめしてしまう。その手の演出は、80年代に限らず今でも多用される非常にオーソドックスな手法なのだから、お約束の裏をかく様な工夫が欲しかった。

また、青春映画としての側面も持っている本作は、登場する少年少女たちのほとんどが家庭内のトラブルを抱えている、という設定になっている。例えば、主人公の両親はいつも帰りが遅く、家族そろって食事をする機会がほとんど無い。加えて、母親は料理が苦手なのだろうか、主人公が食べているのは食パンやシリアルばかりである。その他に、アルコール依存症の母親を世話する少年や、両親の喧嘩が絶えず家に居たたまれない思いを抱いている少年、降ってわいた両親の離婚話にショックを受ける少女なども登場する。もちろん、こうした家庭環境に子供たちが傷つき、互いにその傷を慰めあうシーンは用意されているのだが、それがホラー映画のプロットと有機的に結びついていないので、単なる設定以上の効果をあげていない。結局、少年たちは各々の悩みをうっちゃって、連続殺人犯探しに奔走してしまうのである。

まあ、穿った見方をすれば、各々が抱えている内面の闇を押し隠していつ終わるとも知れない狂奔に明け暮れていたのが80年代なのだ、とも言えなくもない。主人公が夢中になっているオカルトやトンデモ陰謀論があの時代に大流行したのも、不毛な狂乱に倦み疲れた人々が、その果てにある「真実=リアル」を心のどこかで追い求めていたからなのだろう。本作でも「真実=リアル」を隠ぺいする存在として地下室の扉が象徴的に登場する。主人公にとって、この扉を開けシリアルキラーの正体を暴く事と、オカルトや陰謀論を頼りに世界の秘密を解き明かす事は同じ意味を持っているのだ。

もちろん、その扉を開けたところで「真実=リアル」に到達し世界の秘密が解き明かされる事などなかったという事は、80年代を通り越し、90年代、ゼロ年代すら通過してきた私たちは経験として知っている。1度くらい殺人鬼を撃退したからといって日常という物語は終わらない。『13日の金曜日』のジェイソンや『チャイルド・プレイ』のチャッキーは何度倒されても復活し、シリーズを重ねる中でポップ・アイコンと化していった。徒花の様に咲き誇った80年代のホラー映画群は、私たちの終わりなき絶望を体現していたのである。その様な意味で、本作の苦い結末はなかなか示唆に飛んでいると言えるだろう。

 

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  • 発売日: 2015/12/22
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原題は『Class of 1984』です。1984年は町に殺人鬼が現れたり、ブチ切れた音楽教師が不良生徒を皆殺しにしたり、大変な年だったんだなあ。

 

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  • メディア: Blu-ray
 

同じチームが制作した、こちらは『マッドマックス』に代表される80年代バイオレンスアクションへのオマージュに満ちた作品。登場人物が乗り回すのが改造車ではなくチャリンコ、というのが肝。